2019年4月3日、とうもろこしのデンプン消化率について意見交換を行いました。
アメリカの飼料分析機関であるCVAS(Cumberland Valley Analytical Services)と日本で初めてサテライトラボ契約を結び、NIRS(近赤外分析法)による粗飼料分析を開始しました。
はじめに
平成27年5月8日から15日にかけて、コーンサイレージの品種・作付け・刈り取り・調製法、良質サイレージの作り方などを学ぶため、アメリカのウィスコンシン州にて研修ツアーに参加しました。上記研修について紹介いたします。
2月24日シェパード中央家畜診療所の松本大策先生をお招きし、営業担当者を対象にした和牛の飼養管理についての社内講習会を実施いたしました。
内容は、
の2部構成で繁殖から肥育まで幅広いものでした。
講習会の概要は、和牛の“血統”の違い、さらに同じ血統でも“個体の違い”があり、お客様の牛や飼料を同じ目線で見ながら、問題点を共有し、既存の知識のみに頼ることなく、飼養管理の改善を御提案していく手法を教えて頂きました。
繁殖成績の改善のため、まず卵巣や子宮の働きについて牛の生殖器の解剖学的な特徴、卵胞、黄体などの基礎知識、繁殖成績が落ちる栄養管理の例を説明され、その後にケーススタディの方式で牧場の問題点の事例を上げ(例えば初回種付け時に卵、卵巣が小さい→お産前の増し飼い飼料はやってますか?)その原因と改善方法について、ご自身の経験等を交えながら講義が行われました。
その他の問題点の事例は、後産停滞、排卵遅延、卵胞嚢種、発情周期の異常など繁殖障害の主な原因とされる事例であり、また第1胃の異常発酵に伴い発生するエンドトキシンが肝臓を傷め繁殖成績に悪影響を与えていること、さらに第1胃の異常発酵は血統による違いもあるとのことでした。
この血統の違いによる第1胃の異常発酵は“もう一度肥育を考える 第1胃の違いを中心に”で詳細に説明して頂きました。
肥育の話は“第1胃の機能を中心に”肥育の基本、系統による管理の違い添加剤の利用について講習が行われました。
まず第1胃の機能について説明があり、血統の違いで第1胃の機能が異なるとの話が最も印象的でした。大まかには大型牛(気高系)はVFAの吸収速度が速いため、カロリー高め(筋肉量が多く代謝エネルギーが高いため)、小型牛の肉質系(田尻系)はVFA吸収速度が遅いため、カロリー低めで蛋白高め(筋肉量が少なく、代謝エネルギーが低く、筋間脂肪を付けないため)との話しでした。また、牛の外観の特徴から気高系、但馬系、糸桜系の見分け方なども教えていただきました。ただ血統に頼ることなく、牛の外観を見て牛の特徴を見極め管理していく大切さが理解できました。
肥育成績は、腹作りにあるとの話はよく聞きます。今回の講義ではサシの素は第1胃で作られ、サシの数を増やすのは繊維、サシを大きくするのは濃厚飼料であることを解説され2段階の腹作りとして、前半は、粗飼料による第1胃の容積とルーメンマット、粘膜絨毛の形成を、後半は濃厚飼料による腹作りと捉え、濃厚飼料の消化・吸収に向いた胃袋にする。牛のタイプに合わせた増飼も(気高は早め、田尻は遅め)この時期のポイントです。
またスムーズに腹を作るための、素牛の選定、群構成、導入期の体調不良を防ぐ方法や、導入時の抗生物質、ワクチンの使用、目的に応じた効果的な添加剤の使用方法が紹介されました。
最後に講義のなかで、お客様の牛の特徴をよく理解した上で、問題点を共有し、飼料会社として“お客様に飼料を使用して頂く”のではなくお客様の”幸せに貢献する”ための営業活動を行うことが良きパートナーとして、信頼されると教えて頂きました。その結果、お客様に“選んで頂ける飼料会社”になれるのではないかと思います。
今回の講習会は全道各地の営業担当者が参加しました。講習内容で得た知識を役立て、よきパートナーとして選んで頂けますよう活かしていけたらと思います。
来る2013年2月15日(金)に帯広東急インにて、アメリカAMTS社の社長トーマス・タルーキー博士を講師に招き、酪農セミナーを開催いたします。
定員に達したため、申し込みは締め切りました。
5月14・15日にカナダ・アルバータ州立大学の大場真人准教授を講師としてお招きし、初日は酪農場を訪問して牛群の状態をモニタリングしながらの現状確認、2日目は当社会議室にて営業担当者を対象とした講習会を行いました。
講義内容は、北米で研究されている様々な情報のほか、ケース・スタディとして初日に訪問した農場で見てもらった牛群とその飼料設計の評価をしていただきました。
「乳牛の飼料設計講習会」
油脂サプリメントで考慮すべきこと、移行期管理、ケース・スタディ(農場でのモニタリングと現状評価のポイント)など実践的な話題が多く、営業担当者からは質問や意見が活発に出ていました。アシドーシスリスクを回避しながらデンプンを使いこなす栄養設計の考え方や、実際のルーメン内デンプン消化性のイメージについてもいろいろと考えをお聞きすることができました。
大場先生には長時間に渡る講義から数多くの質問すべてに対して丁寧にわかりやすくご説明いただき、非常に有意義な機会になりました。
今回の講習会には、全道各地の営業拠点に所属する営業担当者が参加しました。
今後はそれぞれが得たヒントを、お客様へのアドバイスの際に役立てながら現場で活かしていきたいと思います。
コーネル大学のCNCPS Ver.6.1をエンジンとする栄養設計ソフト「NDS」と「AMTS」の開発・研究がイタリアとアメリカで進められています。これから栄養設計の主流となっていくであろうこれら2つのソフトに関する知識を習得することに加え、現在、アメリカの酪農現場で行われている様々な飼料計算のコンセプトを感じることを目的として訪問してきました。
◎CNCPS Ver6.1(NDS・AMTS)トレーニング
・カンサス州立大学でのNDSトレーニング
・ニューヨーク州AMTS社でのAMTSトレーニング
◎農場訪問 カンサス州 カンサス州立大学農場
◎農場訪問 ウィスコンシン州 ラーソン・エーカー農場
「AMTS」は、日本でも馴染みが深いCPM-Dairyの後継に当たる新しい世代の栄養設計ソフトです。その栄養計算の核にはコーネル大学のCNCPS6.1が組み込まれており、最新の栄養理論が反映されています。
今回はこのAMTSについての理解を深めるため、ソフトの開発元であるアメリカ ニューヨーク州AMTS社(Agricultural Modeling And Training Systems, LLC)社長の Dr. Thomas Tylutki よりトレーニングを受け、実際にAMTSで組んだメニューを給与している牧場を案内してもらいました。
◎CNCPS Ver6.1の栄養の考え方の変化は?
*炭水化物とタンパク質のルーメン内分解速度の変更
*タンパク質のルーメンバイパス率アップと飼料中CP%の低下
*飼料のエネルギー価の低下
◎農場訪問1 ニューヨーク州 EZエーカー農場
◎農場訪問2 ニューヨーク州 ジュリアナホルスタイン
前回2010年6月に続き、アメリカ視察報告の後編です。
獣医師であり、牛群パフォーマンスの総合コンサルタントとしてアメリカで活躍している Dr.Gordon Jones が経営管理する Central Sands Dairy LLS(セントラルサンズデイリー・ウィスコンシン州)の取り組みについて紹介致します。
◎泌乳期の栄養管理について
◎繁殖成績について
◎搾乳作業について
◎カウコンフォートは最も重要です
◎最後に
久しぶりにアメリカ視察の報告です。
今回の視察はウィスコンシン州の酪農家を中心に行いましたが、そのなかで1日半滞在したCentral Sands Dairy LLS(セントラルサンズデイリー)の取り組みについて紹介致します。
◎Dr.Jonesの牛群管理における基本姿勢
◎牧場の概略
◎乾乳牛の飼料給与の特徴…“高繊維、適切なエネルギー”のTMRを給与する
◎乾乳牛のカウコンフォートと牛の状態
<オマケ>
農場で耳にした、発情発見をするときに気にしていること
子牛が生まれ、成長し、授精、受胎、分娩を経て初めて乳生産が始まります。周産期を順調に乗り越えた経産牛にとって、乳生産と並んで重要なのは再生産につながる「受胎(妊娠牛の確保)」です。
ところが、飼養頭数の拡大や個体乳量の伸びなどに伴って「発情が見えない」「なかなか受胎しない」といった繁殖に関わる悩みが増えてきています。乳検での305日間成績における分娩間隔が417日(平成10年)から425日(平成19年)へと伸びてきており、繁殖管理が容易な作業ではなくなってきていることが窺われます。
周産期管理、栄養、発情発見、授精の手技、妊娠鑑定、カウコンフォート・・・様々な条件が絡まって起こりがちな繁殖問題ですが、今回は酪農家の目線から見た繁殖管理についてのレポートをご紹介します。
発情発見という課題に取り組み、1年強という短い期間で経産牛の妊娠頭数を前年の200頭から252頭へ、年間で52頭も増やすことができた農場があります(繁殖管理ソフトDairyComp305での妊娠率は11%から20%台まで向上)。
富良野市に位置する(有)藤井牧場は、経産牛284頭を飼養しており、2007年の生乳出荷は2,808トンでした。この農場の繁殖管理担当である藤井睦子さんは、飼料会社での営業職の経験があり、日常の営業活動や社内研修会などで乳牛についての基本的な知識を学んでいたそうですが、本格的に農場の業務に取り組んだのはご結婚後からとのことです。
その睦子さんに繁殖管理の基本である発情発見や、意識していること、獣医師との関係などについて寄稿していただくことができました。
試行錯誤の中での取り組みを具体的に書いてくださっており、参考になる話がたくさん詰まった非常にすばらしい内容となっています。これからぶつかる新たな課題も出てくるかもしれませんが、農場一丸となって解決なさっていく様子も浮かびます。是非ご一読いただけたらと思います。
Ⅰ 繁殖システムの再構築
・繁殖のどん底、そして獣医師との出会い
・妊鑑マイナスの意味
・「発情発見」をながら仕事から担当制へ
・兆候か直検か
・授精適期を狙う
Ⅱ 発情発見をどのように行っているか?
・1日4回牛舎へ行く
・根拠のある授精
・牛の行動を予測する
・テールチョークの利用
・待つこと
Ⅲ 繁殖検診の活用
・獣医師との関係
・牛群管理ソフト「DC305(DairyComp305)」
・検診内容
・繁殖目標 なぜ繁殖をがんばるのか?
近年、北海道でも和牛の繁殖を中心に飼養頭数が増える傾向にあり、繁殖牛の飼養頭数は、鹿児島、宮崎に続き、第3位になっています。和牛繁殖農家の経営規模の拡大はもちろんですが、酪農家でも一部、和牛繁殖部門を取り入れるケースや、酪農家の和牛の受精卵移植の取り組みなど、北海道では、今後も和牛の子牛の増産傾向は続くことが予想されます。弊社のお客様からも、和牛の育成技術に関する相談が増えてきていますが、飼養管理技術の確立は不十分のようです。
そこで、今回の技術のページは、“和牛の育成期の管理方法”について考えてみたいと思います。
和牛素牛(肥育用・繁殖用の素牛)は、およそ10~12ヶ月前後で市場に出荷され、牛の血統や体重、外観、そのときの市場の相場で価格が決まります。価格を決定する重要な要素は血統ですが、やはり、出荷時の体重の重さ(子牛の増体が良いこと)は重要な要素です。体重についても、ただ重いだけではなくフレーム(骨格)がしっかりして、余計な、皮下脂肪が付いていない外観の素牛が好まれます。
今回は育成期の管理の中で
1)初乳の給与法
2)哺乳期から育成期飼料へ給与の移行期
3)育成期(素牛出荷まで)の管理
の3つにポイントを絞り、話を進めたいと思います。
乳牛の場合と異なり、和牛の場合、分娩後は直接、母牛から自発哺乳させる管理を行っている農場が多くみられます。この場合、特に注意する必要があるのは、品質の良い初乳を十分飲んでいるかが大切です。特に母牛が初産牛の場合は、初乳の量、品質とも不十分なケースもあり、注意が必要です。
(岡山総合畜産センター研究報告12 2001年より引用)
良質な初乳を生産するためには、母牛の分娩前後の管理も重要になります。母牛から適切な初乳が授乳されたかを判断するためには、定期的に子牛の血液検査等を行い、血中の免疫グロブリンの量を測定することも大切です。
目標とされる血中IgGの指標は最高値が20mg/dlとされ、10mg/dl以下の場合は、下痢等の疾病の発症が多くなることが報告されています。
(岡山総合畜産センター研究報告12 2001年より引用)
酪農家で受精卵移植により、ホルスタインから和牛子牛を出生させた場合、または、規模の大きい繁殖農家は、分娩後直ちに、母親から離し、ホルスタインの凍結初乳かまたは、市販の初乳製剤を給与する管理も見られます。もし、ホルスタインの凍結初乳を給与する場合、和牛の初乳と比較してIgGの含有量が少ない傾向が見られることを考慮し、(表2)市販の初乳製剤も併用する(特に、初産牛の子牛)必要があると思います。
(北海道立畜産試験場 2005年 研究報告から引用)
和牛子牛の場合でも、カーフハッチや哺乳ロボット牛舎で代用乳(ミルク)を給与する管理が徐々に増えてきています。
和牛子牛はホルスタイン種よりも出生体重は小さく、消化器官の能力の差で下痢等が発症しやすい傾向にあるようです。
子牛糞便のpHの変化(和牛子牛のほうがホルスタインよりpHのばらつきが大きい)
昭和産業 “子牛疾病予防講習会より引用”
このような理由で和牛子牛の哺乳期の管理はホルスタインよりもより、きめ細かい管理が必要となります。
基本的には、衛生的な環境で飼育されることが最も重要ですが、ミルク給与時に
1.衛生に取り扱われた哺乳ボトルを用いて
2.各メーカーが推奨する方法で十分に攪拌し
3.決まった時間に
4.同じ方法で
5.一定の温度で
など、基本のルールを守り、給与する必要がありますが、体重に比例した量も考慮し、体重の小さい牛は、哺乳回数を3回以上に分け、少量ずつ哺乳させること、生菌剤や、イソマルトオリゴ糖などを利用することが、下痢発症の軽減に有効と思われます。
スターター(易発酵性の炭水化物)の給与はルーメンの絨毛の発達に最も重要です。近年では、“えん麦”のように外皮がある穀類が、伸びた絨毛を“スクラッチ”することでより正常な絨毛の発育を促す効果も報告されています。また水の供給はルーメン微生物の発育のために必要です。ミルクは第2胃溝反射により、第4胃へと送られます。
そのため水の給与を行なわなければ、第1胃に水の供給が出来ないことになり、ルーメン微生物の発育が遅れることになります。
したがってスターター、水は生後1週間程度から、給与すべきです。
また、乾草の給与については、近年、色々な意見がありますが、ルーメンの筋層の発達を促すことや、哺乳中の牛でもハッチ内の麦稈等を食べているケースの報告もあり、早期に乾草を給与する場合はスターターの摂取を低下させない量(約200g程度が目安)を食べやすい形状に切断し、給与したほうが良いと思われます。
育成期は、素牛出荷に向けて配合飼料を3Kg程度からスタートし、出荷直前には乾草(またはロールサイレージ)を飽食にし、濃厚飼料は配合飼料を4Kg~6Kg程度、給与します。
基本的な考え方は、どのマニュアルでも良質の粗飼料を十分食い込ませ、その上で配合飼料を過剰に給与することなく、目的の体重を達成し、評価される素牛を出荷することにありますが、粗飼料の品質の判断について、粗飼料分析を行ない栄養価まで、確認しているケースは少ないのが現状です。
また、配合飼料はCP18%、TDN74%の配合飼料で成分的には同じでも、その他の特徴、例えば、バイパス蛋白質(ルーメン微生物の消化作用を受けずに下部消化管へ移行する蛋白)や、分解性蛋白質(ルーメン微生物に分解され、微生物体蛋白に変えられる蛋白質)の割合、NFC(易発酵性炭水化物 デンプンや糖などで、ルーメン内で、すぐに発酵し、微生物に利用される炭水化物)の割合は異なります。最近では、この分解性蛋白とNFCのアンバランス(分解性蛋白が多い傾向にある)で、尿のpHがアルカリに傾き、そのことが尿石発生の要因の1つとされています。
したがって、配合飼料を選択するときには、TDN、CPの成分のみで、選択せず、その他の栄養成分や、育成期の消化機能も考慮し配合飼料を選択する必要があります。
育成期の配合飼料は
1)嗜好性の良い原料を使っている。
2)ルーメン絨毛を発達させるため易発酵性(デンプンや糖)炭水化物が多く、ルーメン上皮を刺激する穀類が配合されている。
3)ルーメンの発達が十分でない(特に育成前期)ため、分解性蛋白とバイパス蛋白のバランスが考慮されている。
4)抗病性を考慮し、ビタミンA,ビタミンEや亜鉛メチオニン、有機ミネラルが配合されている。
5)粗飼料(例えば、ルーサンキューブなど)も配合され、穀類と繊維のバランスも考慮している。
6)生菌剤などが使用されているもの
などの点に注意し、選択すべきです。
哺乳時の疾病の発症の有無や、衛生、環境状況は、子牛の発育に大きく影響します。今回は、子牛衛生プログラムやワクチネーションについては触れていませんが、まずは、感染症、下痢、肺炎などの疾病の発症を防ぐ管理が重要です
その点を改善した上で、現状の栄養管理を再確認し、問題点の改善を行なえは“市場で評価される子牛”の生産は可能です
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
今回の“技術のページ”も前回のデーリーエキスポに続きアメリカの酪農情報です。道内の酪農家の企画した視察旅行に同行させていただき、アメリカ、カリフォルニア州立大学デービス校で、Dr.サントスの講義と近郊の酪農家(リバーランチファーム:搾乳牛頭数約5000頭)を視察しました。Dr.サントスは、ブラジルの獣医学部を卒業後、アリゾナ大学大学院で反芻動物の栄養学について学び博士号を取得した経歴を持ち、現在、カリフォルニア大学デービス校の准教授で、栄養と繁殖に関する研究を行う傍ら、近郊酪農家のコンサルテーションを行うとともに、その際、獣医学部の学生を同行させ、乳牛の獣医師として必要な“実践教育”も行っています。今回視察した、リバーランチファームは、Dr.サントスがコンサルテーションを行っている農場の1つで、農場の繁殖検診とその成績の解析、疾病への対応、乳量、乳成分の変動の調査、飼料設計やTMRのチェック、現状の問題点など多岐にわたりコンサルテーションを行っています。
カリフォルニア大学デービス校
獣医学部 研究センター
今回の視察のテーマは“繁殖管理”がメインテーマでしたが、乾乳牛の状況と繁殖障害(子宮内膜炎を例にして)のセミナーから始まりました。
繁殖成績を考える場合でも、まずは乾乳牛の管理がスタートになります。
セミナーでは乾乳期の乾物摂取量と分娩後の子宮内膜炎の関係、NEFA(遊離脂肪酸)の推移、免疫力の低下について説明し、乾乳期の管理が分娩後の繁殖成績の向上には欠かせないことを強調していました。
・黒線のグラフが正常牛(移行期の乾物摂取量が最も高い)
・青線のグラフが潜在性の子宮内膜炎を発症した牛
・赤線のグラフが子宮内膜炎を発症した牛
移行期の乾物摂取量と
分娩後の子宮内膜炎の発症
カリフォルニアはドライロットが多く、牛の休息スペースは十分で、密飼いにはならないケースが多く、他の酪農地帯と比較して有利な環境にあること、BCSは3.5を目安にして、NDFを十分給与すること、また、免疫性を高めるためにビタミンE,セレンなどを給与することなどを、飼料設計(CPM DairyV3)を用いながら解説してくれました。特に、乾乳後期の経産牛はイオンバランスを用いて分娩後の疾病を軽減することが重要で、DCADを-5~10meq/100gにコントロールするためにカリが、1.1%~1.6%の範囲にあるルーサンヘイを購入し使用しているとの話でした。
補足:粗飼料のカリの値が低ければ嗜好性のよくない陰イオン塩を給与する量が少なくなり、陰イオン塩給与の欠点である乾物摂取量の低下を軽減できます。
産褥群については砂のベッドを採用し、密飼いせず、カウコンフォートが最適になるように管理され、さらに品質の良いルーサンヘイを産褥用に購入しています。また、個体毎に体温、ケトン体、子宮からの粘液(悪露)、便の状態、BCSの動きを把握して問題牛にすばやく対処していました。給与するTMRは、産褥群のTMRの物理的切断長が、泌乳前期より上段の割合が高くなるように、ルーサン乾草を増やして飼料計算を行い、実際にそのようになっているかどうかを確認しています。
このように、栄養管理と疾病の発生など牛の状態の確認をDr.サントスが行い、問題が発生すれば、迅速に対応できるような管理が実現されています。
産褥群の砂のベッド
リバーランチ牧場は使用する粗飼料の品質に特に注意しているようです。
ルーサンヘイは、“乾乳後期のDCADヘイ”、“産褥群のハイクオリティーヘイ”、“泌乳前期、後期のヘイ”の3種類を購入し使い分けていることになります。実際、北海道の平均的な牛群サイズで、細かく群分けを行い、目的に応じて粗飼料を使い分けることは現実的ではないのかもしれませんが、このように乾乳期にカリの低いDCADヘイ、産褥群にハイクオリティーヘイを目的に応じて給与することが可能なら、多くの牛群で牛群成績が向上することは間違いないでしょう。
現在、リバーランチファームの分娩後1~2週目での第四胃変位の発生率は0.5%であり、現在の移行期の管理の成果が疾病の低下と、その後の繁殖成績につながっていると推察されます。
ペンシルバニアの篩
現在、リバーランチファームの成績の概要と繁殖成績
経産牛5,200頭、初産が60%(規模拡大したばかりで、初産の割合が高い)平均乳量33.2Kg、乳脂肪3.65%(分娩後60日以降は14日間隔でbST使用)初回授精は分娩後50日以降にスタートして78日には99.5%の牛が授精される。
平均初回授精は66日、初回AIの受胎率42%、発情発見率64%、妊娠率24%注:ただし繁殖管理は“Dairy Comp305”を用いての結果です。
Dairy Comp305については、現在、日本の酪農家や獣医師の間にも普及してきた牛群管理ソフトで、今回一緒に視察した酪農家の方も導入して活用しているとのことでした。Dairy Comp305を用いた場合、目標とする妊娠率は23~25%とされていますので、この繁殖状況は良好な状況と思われます。
リバーランチではテールチョークを用いた視覚的発情発見とホルモン処置(PG、プレシンク/オブシンク)で初回授精をコントロールしています。初回授精日が80日以内にコントロールされている要因は、移行期の牛群の飼養管理に加え、農場での発情発見、ホルモン処置(プレシンク/オブシンクプログラム)が効果的に機能しているとことを示唆しています。またホルモンを用いたプログラムの途中でも発情を発見したら授精することを推奨しており、発情を発見して授精することがやはり繁殖管理の基本であることを認識しました。
オブシンク
GnRHを投与後、7日目にPGを投与し黄体を退行させ、その2日後GnRHを投与して排卵を促す。その後16時間~24時間後に発情を発見することなく授精する。
プレシンク/オブシンク
オブシンクを行う前にPGを14日間隔で2回投与することで(プレシンク)、排卵の同期化を目的とするオブシンクの効果を高めることが出来る。またPGの2回投与で発情が来た牛に対しては、直ちに授精を行うことも可能。
授精後の牛は、妊娠+、-を迅速に判断し、妊娠-牛に対して直ちに再授精を行うことが繁殖成績改善の重要な要素になります。この妊娠診断を超音波により授精後28日目に行い、妊娠していない牛には3日後(前回の授精から31日)に定時授精を行う方法(リシンク)について講義を受けました。
リシンクは、妊娠診断を行う1週間前(授精後21日)にGnRHを投与します。妊娠診断時、妊娠-の場合、直ちにPGを投与し、2日後にGnRHを投与し、16~24時間後に定時授精を行います。(下図参照)この方法で妊娠-の牛は授精から31日後には、再授精が可能となります。超音波を使った方法は、直腸検査の触診診断と比較し、胎児の状況を視覚的に捉えることが可能になり、より精度の高い妊娠診断が行えます。妊娠率24%と高い繁殖成績を支えているのは、農場の質の高い移行期管理に加え、このような積極的な繁殖マネージメントがうまく機能している結果であることが理解できました。
今回紹介したような、移行期の管理、繁殖管理はこれまでも基本的な管理としていろいろな酪農関連雑誌、セミナー等で紹介されています。ただし、そのことを実践することはかなり難しいのが現実です。Dr.サントスの講義で、経営の中で大切な指標として、“飼料効率”の話がありました。“飼料効率”とは、飼料1Kg当たりの乳量はどれくらいかを示す指標で3.5%補正乳量を用いて、下記のような式で求められます。
もし、乳量34Kg、乳脂肪率3.8%、乾物摂取量22.4Kgの場合
補正乳量=(0.4324×乳量Kg)+(16.218×脂肪量Kg)
=(0.4324×34Kg)+(16.218×1.292Kg)
=14.7Kg+20.95Kg
=35.65Kg
飼料効率=3.5%補正乳量/乾物摂取量
35.65/22.4=1.59となります。
飼料効率は近年、酪農関連雑誌でも紹介されていますが、1群の場合は1.4~1.6がガイドラインとされ、1.3以下は問題牛としています。飼料効率に影響する要因は、分娩後日数、粗飼料の品質、消化率、蛋白質量など多岐に渡り、移行期の状況や繁殖成績も牛群の飼料効率に大きな影響を与えます。
今後は、乾物摂取量だけでなく、“飼料効率”も牛群の総合評価の“指標”として捉え、牛群の状況を考えたいと思います。
今回の視察終了後、ロサンゼルスに移動して観光する機会に恵まれました。これまでの視察は、観光の時間はほとんど無く、牧場を見て回るだけでしたが、今回は乳牛とは関係ない時間もあり、より充実した米国視察旅行になりました。
今回、このような企画に同行させて頂き感謝しています。ただし、牛肉とビールやウィスキーなどアルコールをかなり摂取していましたので、視察中は、痛風発作を気にすることになりました。また、今後は今回の視察を参考にし“有意義な楽しい視察旅行”を企画してみたいと思っています。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
視察旅行に参加した酪農家の方々と
今回は、米国、ウイスコンシン州、マディソンで行われた、ワールドデーリーエキスポ2006について報告します。ワールドデーリーエキスポについては、実際に、視察された酪農家も多いと思いますが、一言で説明すると米国で開かれる“国際的な酪農祭り”でしょうか?
2006年パンフレットの表紙より抜粋
ワールドデーリーエキスポは、毎年秋にウイスコンシン州、マディソンで開催され、今年は10月3日~7日に行われました。この“酪農祭り”には、世界各国から参加者があり、日本からも毎年約200人以上の酪農関係者が訪れています。以前から、デーリーエキスポについては知っていましたが、その規模の大きさや、華やかさについて実感することができました。また、酪農産業は、これだけ大きなイベントを開ける“世界共通の産業”であることを認識しました。この連帯感を実感できたことが、今回、もっとも大きな収穫でした。
cattle show
デーリーエキスポでは、北米の最高の乳牛を決める共進会(Cattle show)が開かれ、その共進会に参加する乳牛をじっくり見ることができます。したがって、この共進会を見ることを目的に(あるいは出品すること)参加する人も多いと思います。私にはこの共進会に参加している牛のすべてが、“芸術品”の乳牛ばかりでした。もちろん、主役は乳牛?でしょうが、その主役を作り上げ、共進会で、より美しく乳牛を見せようとリードする酪農家の技術(苦労)は、すばらしいものです。今回参加したすべての、乳牛、酪農家に対して敬意を示したいと思います。
牛と出品者
また、共進会(Cattle show)会場を中心にデーリーエキスポでは、世界各国から、酪農関連企業のブースが出展されます。ブースは3つの会場に、約650社程度あり、丹波屋で取り扱っている商品はもとより、初めて見る商品や、最新の牛舎施設など、あらゆる分野の商品が数多く出展されています今回はこのブースで北海道の酪農家に役立つような商品がないかを発見することもデーリーエキスポに参加した1つの目的です。約650社程度で3つの会場に別れた企業ブースを詳しく見て回れば、最低2日は必要です。当然、ブースで聞いた商品説明では、興味深い商品ばかりですが、実際の酪農家の評価は分かりません。したがって、実際に酪農家の評価を調査することも必要です。その上で、機会があれば、北海道の酪農家にも紹介してみたいと思います。
cattle show に出る牛
リーシュアー
メガラックR
フリーダムストール
アミックスS
デーリーエキスポでは、酪農家が自分の農場について映像(スライド等)を使って紹介するバーチャルファームツアーが、開催中、1日2回、約1時間半行われています。今回は、10月5日、6日の2日間、午後2時の部に参加しました。このバーチャルファームツアーが、デーリーエキスポの中で、もっとも興味深いイベントになりました。10月5日の、バーチャルファームツアーでは、“自分の牛乳を必要としている消費者がいる。そのために品質の良い牛乳を生産すること”を酪農経営の理念とし、“もっと差別化し、消費者に選ばれ、より安定的な収益を上げるために牛乳からチーズ作り”へ変換した牧場の話を聞きました。
1) 農場の最良のカウコンフォートと衛生環境
2) 創意工夫により高品質で、他の牧場ではまねできないチーズ作り
3) 経営者の家族が自ら消費者に販売する姿
など、消費者を意識した、経営者の姿勢は十分理解でき、感銘を受けました。可能であれば、ぜひ次回、カリフォルニアに行き実際に農場を見学し、話を聞いてみたいと思います。
バーチャルツアーの説明のパンフレット
実は今回、日本に帰ってから、デーリーエキスポのプログラムについて詳細に読んでみるといろいろなイベント(セミナー)あったことを知り、もっとイベントに参加すればよかったと反省しています。たとえば、“サイレージスーパーボールコンテスト”(サイレージの栄養や発酵品質の比較)のブースの脇にステージがあり、種子会社がサイレージの特徴についての説明するためと勝手に思い込んでいましたが、このブースで毎日2回、粗飼料の栄養についてセミナーが開催され、マイケル、ハッチェンス氏やメアリーベス女史、Drギャレットオッツエル氏から栄養学や疾病の講義を受講できたことを後から知りました。もし、来年以降、参加を予定されている方は、下記の点について事前に準備しておくと、より効率的にデーリーエキスポを体験することが可能かと思います。
サイレージの展示
1)まずは、インターネットのホームページで今年のイベント、出展企業を確認し、調査したい 関連企業等をピックアップする。(ヤフー検索するとホームページの内容が日本語に翻訳可能な場合もあります。)
ホームページのアドレス WWW.WORLDDAIRYEXPO.COM
2)可能であれば、専門知識があり、英語が堪能な通訳を事前に探す。
(デーリーエキスポの会場でもそのようなサービスがあるようですが?)
3)セミナー、バーチャルファームツアー、共進会など各イベントの内容と日程を確認し、事前にタイムスケジュールを作り、デーリーエキスポの催し物に効率よく参加する。参加する場合は2名以上で参加し、テープレコーダを持参し、セミナー後に大まかな内容を確認する。もし分からないときは後日、英語の堪能な人にテープを聞いてもらい内容の確認を行う。
4)携帯できる電子辞書を持参する。
5)時差ぼけ予防対策(実際、最初の2日~3日は夜中に目が覚め、寝不足が続きました)、たとえばメラトニン製剤(睡眠導入薬)を事前に医師と相談の上、入手してから渡米する。
6)これまで、参加経験のある人に事前に相談してアドバイスを受けるなど、いろいろな準備をしておくことで、よりデーリーエキスポを活用できます。
cattle show
入場料は期間中何度でも入場可能な入場券がなんと21ドルですから、こんな安価で貴重な酪農情報を習得できる機会は他にありません。来年、参加を予定されている方、あるいは、デーリーエキスポに興味のある方はまずはホームページにアクセスし、2006年のデーリーエキスポの情報を入手することをお勧めします。まず、デーリーエキスポで興味のあるイベントを決め、その前後に農場視察等を組み合わせれば、有意義な“米国視察ツアー”が企画できると思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
最近、酪農雑誌等で、乾乳期間の短縮についての記事が記載されるようになり、北海道の酪農家の中にも、乾乳期間の短縮に取り組む農家もあるようです。ただしその結果については、思ったような効果が得られず、以前の60日の乾乳期間に戻したとの話もありました。乾乳期の短縮については、以前、ホームページで新しい酪農技術として簡単に紹介しましたが、今回は、これまで紹介された乾乳期間の短縮の実例やその目的、注意点を整理し、より詳細に乾乳期間の短縮について考えたいと思います。
乾乳期の乳腺細胞の変化は、退縮、休止期、再生または分化期の3つの段階に分けられると考えられています。
①積極的な乳腺細胞の退縮
(乳腺細胞の退縮と細胞の死は泌乳全期で起こるが、乾乳することにより退縮と細胞の死が急速に進行する)
↓
②退縮のいわゆる定常状態、休止期
↓
③再生期、または分化期
この期間が各々2~3週間程度であり、乾乳期間が60日必要とされる根拠になっていました。また、実際に乳検データの乾乳期間の長さと、次期の乳期の乳量を調査したところ、最低でも50日~60日の乾乳期間が必要とされるデータが示され、実際のフィールドの結果も、乾乳期間は最低でも50日~60日は必要であるとされてきました。
参考文献:平成13年度 個体の305日間成績
vol.26 社団法人 北海道酪農検定検査協会
ただし、これまで、定説とされていた乾乳期間の乳腺細胞の変化については再度詳細な調査が必要であり、乳腺細胞の発達は30日~40日あれば十分であるとの報告もあるようです。また、乳検データの結果についても、そのデータは、乾乳期間について厳密な試験をおこなった結果ではなく、ただ単に乾乳期間の比較を示したものであり、乾乳期間が短かった個体は、人工授精の記録のミス、早産、双子分娩、乾乳することを忘れたなど、60日の乾乳期間をとっていた個体に比較し乾乳期の飼養管理が不十分な個体であった可能性もあることから、乾乳期間が60日間は必要する根拠には疑問があるとの意見もあります。
乳牛の改良や、飼養管理技術の進歩で乳牛の生産性も向上し、乾乳時に乳量が25㎏以上の乳牛も多くなっています。このような個体を乾乳にした場合、乳頭口が閉じきらずに乾乳期の感染による分娩直後の乳房炎の問題も指摘されるようになっています。分娩直後の乳房炎の問題は、その後の泌乳量に大きな影響を与えますので、泌乳量の高い個体は乾乳期間を60日とることにこだわらず、ある程度乳量が低下するまで、泌乳期間を延長(乾乳期間は42日程度で、乳量が16Kg以下になるように誘導)し、乾乳することを推奨する意見もあります。このような個体の場合、乾乳期の短縮による乳房炎の発生の防止と、泌乳期間が15日延長されることでの出荷乳量の増加(平均乳量を20Kgとすれば、約300Kgの乳量を余分に出荷できる)の2つの利点を得ることが出来ます。もし、乾乳期の短縮によって、次期の産次での乳量の低下が見られたとしても、乳量300Kg以上の減少がない場合では、結果として出荷乳量が増加し、分娩後の乳房炎の問題が軽減される可能性があります。
泌乳期間の延長、乾乳期間の短縮により、乾乳牛舎のスペースが現在よりも少なくてよいことになります。
(当然、泌乳牛舎のスペースはより多く必要です)
最近の研究では、乾乳牛舎では、定員の約90%以下の頭数(泌乳牛では許容範囲が110%以下)で飼養されるのが適切とされます。夏場の繁殖成績の低下で受胎が秋にずれ込み、その結果、分娩が一定の期間に集中する場合などは、粗飼料の変更、大きな飼料給与の変動等が見られなくても、乾乳期間を過密な状況で飼養することになり、分娩後の疾病が増加します。乾乳牛舎のスペースを十分にとることが出来れば、問題は解決するのでしょうが、実際には、分娩が偏った場合を想定して、乾乳牛舎のスペースを十分とるように作られるケースはあまり見られません。そのような場合には、乾乳期を短縮することで、乾乳牛舎の過密の状況を改善することが可能です。乾乳を60日として、乾乳期を過密にさせるよりも、乾乳期短縮による過密な状況を解消したメリットが大きいと(次期乳期で乳量がやや低下するとしても)思われる場合は、乾乳期の短縮を取り組む価値は十分あると思われます。
一般的に推奨されている乾乳期間は、乾乳前期、乾乳後期の2群管理を行うことが推奨されていますが、この場合も乾乳期間が60日を前提としています。もし乾乳期間が60日は必要ないとしたら、現在の2群管理ではなく、1群管理のほうが良いのかもしれません。乾乳期間を短縮した場合、短い乾乳期間を2群に分けて、それぞれ異なる給与形態を持つことは無理があると思われます。したがって、乾乳期間を短縮する場合は、1群管理を行うことが現実的で、その場合、乾乳期間の飼養管理も簡便化されることになります。現実に、60日の乾乳期間であっても乾乳牛舎の状況や、管理上の都合で、1群管理を行っている酪農家もあります。また、実際に乾乳期を短縮する場合は、乾乳後期の栄養レベルの1群管理が推奨されているようです。
以上のようなことが乾乳期を短縮する際の利点と考えられています。
実際、乾乳期の短縮に取り組んだがうまくいかなかったとの話もあります。問題点はどこにあるのでしょうか?乾乳期間の短縮の事例について整理すると下記のような牛は短縮すべきではないようです。
乾乳期の短縮を行うべきでない牛(従来の50日~60日の乾乳期間が必要)
1)初産牛
2)低泌乳牛(乾乳時すでに乳量が15Kg以下の牛)
3)BCSが低い牛
4)泌乳後期に乳房炎を発症し、乾乳期間に再治療する可能性がある牛
5)双子を妊娠する可能性がある牛
6)泌乳中に問題があった牛
整理して考えると乾乳期を短縮すべきでない牛の条件もかなりあることが理解できます。
もし、すべての牛に乾乳期間の短縮を行った場合、初産牛では良い結果は期待できないこと(牛群のほぼ30%は初産牛)や、経産牛であっても、低泌乳のため、目標の乾乳期間の40日よりもかなり早めに乾乳される牛も必ずいます。このような牛は、長期間、栄養濃度の高いクロースアップの餌を給与されますので、乾乳中に過肥が進むことが考えられます。その場合、以前のように乾乳前期、後期の2群の栄養管理に比較して、分娩後の疾病が増加する可能性があります。
したがって乾乳期の短縮に取り組む場合は、短縮すべきでない牛もいることを前提とし、乾乳前期(ファーオフ)、乾乳後期(クロースアップ)の2群の管理を行い、牛の状態に応じて、乾乳期間を選択し、乾乳期を管理することが必要になります。
乾乳期間については、現在、30日乾乳も問題ないとする報告もあるようですが、40日~45日程度の乾乳日数が無難と思われます。乾乳期間の短縮を行う場合に推奨される栄養濃度は、これまでのクロースアップの栄養濃度が推奨されていますが、乾乳期の栄養レベルについては乾乳期の短縮に限らず、いろいろな意見があり、議論されるところです。たとえば、エネルギーの指標を示すNEl濃度を考えても、研究者が推奨している栄養濃度(1.5~1.6Mcal/Kg)がどのような計算ソフトを用いたものか(2001年NRCあるいはCPMを念頭置いているかなど)、不明な場合が多いので、推奨値を明確にすることが難しい状況です。最近は、乾乳期の飼養管理の向上などで、乾乳期でもかなり乾物摂取量が高い牛群もあります。その場合あまり高い栄養濃度では、乾乳期間に牛が過肥になること、あるいは分娩直前の乾物摂取量の低下や、インスリン抵抗性の状況に陥り易くなり、NEFA(脂肪の動因が促進され、遊離脂肪酸が多くなる)の値が上昇し、分娩後のトラブルが増加する傾向があることなどが指摘されるようになりました。したがって可能であれば、乾草などを入れて(切断した乾草をTMRに入れて給与)ルーメンのがさを考えた飼料給与形態を実現した上で、エネルギー濃度(これまでの乾乳後期よりもやや低い栄養濃度)を考慮する必要があるのではないかと思われます。
* インスリン抵抗性とは
インスリンは血糖を下げるホルモンですい臓から放出されています。インスリン抵抗性とはインシュリンの作用により糖を取り込み、脂肪の動因を抑える代謝反応が低下している状態で、その場合、ケトーシス、脂肪肝などの代謝病が増加します。
また、分娩後、乳熱の発生頻度が高い場合、これまで60日乾乳で2群の管理が可能であれば、乾乳前期は十分にカルシウムを給与し、乾乳後期の21日はカルシウム濃度を低く抑える給与法が従来から推奨されていました。もし、乾乳を短縮する場合は、乾乳後期の1群管理の給与形態をとることになりますので、40日間カルシウム濃度を抑えた給与法では問題があります。したがって、粗飼料のKが高く、分娩後に乳熱の発生頻度が高い場合についは、緩やかにDCAD(0mEq/100g前後にする)をとる方法が良いのではないかと思っています。以前は、DCADに取り組んだ場合、“嗜好性に問題があり乾物摂取量の低下が見られたため中止したと”の酪農家もあったようですが、最近は、DCADを行うための商品の嗜好性も改善されており、有効に使用されている酪農家もあるようです。
したがって、乾乳期短縮の短縮を行う際は
1)条件を満たした牛がその対象になること
2)基本的には2群管理を行い、条件を満たした牛は乾乳後期群で40日以上の乾乳期は飼養されること
3)乾乳後期の栄養レベルは、推奨されている栄養濃度よりやや低くても、乾草などを用いた給与法をベースすること。
4)もし、乳熱など発生が見られる場合は、緩やかに、DCADをとる給与形態を用いることなどの飼養管理を行うことが必要かと思います。(当然、乾乳期は、乾乳期の短縮の有無に関わらず、使用する粗飼料は良質なものを使用する必要があります)
また、乾乳期の短縮を行う場合、現在使用している乾乳期軟膏で次期分娩後の抗生物質の残留の問題ないかどうか、検討する必要があります。問題が生じるようであれば、乾乳期間を短縮する牛についての乾乳期治療のプロトコールが必要になります。
今回は、乾乳期の短縮について、再度、整理してみましたが、実際取り入れる際には、多くのハードルがあるようです。まずは、各農場の現状と、牛の個体の能力を十分把握して、産次の進んだ経産牛で試験を行い、その結果をモニタリングし、その結果から、自分の牛群に取り入れるかどうかを判断すべきだと思われます。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
昨年の9月から2001年NRCのTDNの推定式を採用した粗飼料分析法が行われるようになりました。粗飼料分析で新しく追加された項目は、2001年NRCの計算式を用いてTDNを計算するために必要な成分値であり、海外の分析センター(米国、Dairy One等)では、すでに採用されていました。2001年NRCによるTDNの計算式等については、2004年の2月のホームページで紹介しましたが、今回は、推定されたTDNや追加された分析項目について活用するための注意点について考察してみたいと思います。
繊維の分画の1つで最も消化されにくい部分
NDFに結合した蛋白質 以前はNDFの一部として分析されていた蛋白質。
ADFに結合している蛋白 以前は結合蛋白(BP)として分析された。
*注意 粗飼料の種類により、新しいTDN推定式を用いない分析センターもある。
今回、TDNの詳細な式については説明しませんが、2001年NRCの計算式によるTDNの推定値は従来のイネ科のTDNに比較し数%高くなる傾向が見られます。たとえば、8月にTDN56%として、報告されたグラスサイレージが9月以降は推定式の違いで60%として評価される(実際に栄養価が上がったわけではない)と考えれば良いと思います。表1にA分析センターでの実際の分析値と旧TDN、新TDNの推定値を比較しました。
表1 2001年NRCのTDNの推定式と旧方式との比較
番号 | CP | ADF | NDF | ADL (リグニン) | NDICP | 旧TDN | 新TDN |
1 | 8.0 | 39.5 | 67.4 | 4.9 | 3.1 | 53.2 | 58.2 |
2 | 13.0 | 36.8 | 62.1 | 3.0 | 3.3 | 59.5 | 65.5 |
3 | 10.7 | 40.2 | 66.9 | 4.2 | 2.5 | 53.9 | 59.9 |
4 | 14.6 | 33.3 | 57.0 | 2.8 | 3.4 | 59.6 | 63.8 |
5 | 11.9 | 37.6 | 63.3 | 4.1 | 2.2 | 55.9 | 60.4 |
6 | 16.2 | 38.6 | 64.7 | 3.7 | 2.7 | 56.7 | 62.3 |
7 | 15.4 | 38.5 | 64.5 | 4.2 | 3.2 | 56.1 | 60.4 |
8 | 13.2 | 36.6 | 61.7 | 2.7 | 2.5 | 59.7 | 65.5 |
9 | 11.3 | 41.9 | 69.4 | 4.2 | 2.5 | 53.3 | 59.1 |
10 | 5.8 | 40.0 | 66.7 | 3.6 | 3.0 | 54.7 | 60.1 |
11 | 14.4 | 36.6 | 61.7 | 3.3 | 2.3 | 57.1 | 62.5 |
12 | 11.9 | 37.1 | 62.4 | 2.9 | 4.4 | 57.4 | 63.3 |
13 | 12.2 | 38.8 | 64.9 | 3.5 | 2.8 | 56.7 | 63.0 |
平均値 | 12.2 | 38.1 | 64.1 | 3.6 | 2.9 | 56.4 | 61.9 |
*同じ分析センターの分析値
この表からも、いずれのサンプルも新TDNの値が旧TDNに比較して高くなっていることが理解できます。したがって、粗飼料分析値のTDNやNElを直接入力し飼料計算する場合(たとえばスパルタンなどの飼料設計ソフト)は、今回の変更を理解し、注意して用いる必要があります。
新しく追加された項目の中で、リグニンは、Dairy-One(米国)の分析値やNRCおよびCPMデーリーのブックバリューの値に比較して、低い傾向が見られます。この成分値の違いは、米国と北海道のイネ科牧草の違いによるものか、それとも分析センターの差なのかを知るため、同じサンプル(グラスサイレージ1番)を国内2カ所及びDairy-Oneの計3カ所の分析センターで分析を行い、その比較を図2に示しました。分析の結果、リグニン値はA分析センターで3.1%、B分析センターで4.65%、およびDairy-Oneで5.6%になっています。サンプルの比較は1例のみですが(実際は2番のグラスサイレージも送り同じような傾向になっています。)北海道産のグラスサイレージを用いた分析でも、ほぼ同様の結果が得られました。したがって、現在、リグニンの分析値は、各分析センター間で差があるのではないかと推察されます。
表2 グラスサイレージ1番の分析値(分析センター間の比較)
分析センターA | 分析センターB | Dairy one | ||
DM | % | 28.2 | 31.35 | 27.5 |
TDN | % | 65.1 | 61 | 67 |
NEI | Mcal/Kg | 1.42 | 1.28 | 1.39 |
CP | % | 15.1 | 14.18 | 14.4 |
SIP | CP中% | 47.9 | 50.6 | 50 |
BP(ADICP) | % | 0.95 | 1.31 | 0.9 |
ADF | % | 36.3 | 36.58 | 36.3 |
NDF | % | 60.1 | 60.62 | 58.1 |
NFC | % | 13.7 | 16.55 | 19.5 |
EE | % | 5.3 | 4.44 | 4.4 |
灰分 | % | 8.3 | 8.45 | 7.11 |
ADL(リグニン) | % | 3.1 | 4.65 | 5.6 |
NDF% | 5.16 | 7.67 | 9.64 | |
NDICP | % | 2.4 | 4.24 | 3.4 |
CP中% | 15.89 | 29.90 | 23.61 | |
カルシウム | % | 0.37 | 0.36 | 0.42 |
リン | % | 0.28 | 0.21 | 0.3 |
マグネシウム | % | 0.13 | 0.13 | 0.14 |
カリウム | % | 2.97 | 2.96 | 3.15 |
リグニンの値を用いて飼料計算するソフトにCPMデーリーがあります。このソフトのエネルギー評価は、ME(代謝エネルギー)であり、MEは各栄養成分からTDNを求め、さらにTDNからDE(可消化エネルギー)を算出し、DEからMEを計算する方法をとります。また、蛋白質はMP(代謝蛋白)で評価し、ルーメン内で微生物が合成した微生物の体蛋白とルーメンをバイパスした蛋白の合計をMPとして計算します。このME、MPを求めるため、基礎データーとしてリグニン、NDICPの成分値が必要です。これまでは、米国の分析センターの“Dairy-One”に分析を依頼するか、CPMデーリーにサンプルとして入力されているフィードライブラリーの値を参考にしてリグニン、NDICPの値を使う方法を便宜的に行っていましたが、今回、リグニン、ADICP、NDICPが国内で分析されることで、より容易にCPMデーリーを使い飼料計算を行えるようになりました。ただし、前述したようにリグニンの値には、各分析センターで分析値の相違があるようです。そこで、実際にCPMデーリーを用いてリグニンの差の与える影響について比較を行いました。設計モデルは、2産の牛、体重620Kg、設定乳量37Kg、乳脂肪3.8%、乳蛋白3.2%、分娩後日数80日としてB分析センターのグラスサイレージの分析値を使い、乾物摂取量、ME、MPが要求量に対して充足するように飼料設計しました。
その後、グラスサイレージをA分析センター(3.1%)及びDairy One(5.6%)のリグニンの値に変更した場合のME,MP期待乳量を比較し、表3に示しました。この結果から、リグニンの値が大きい分析センター(2.5%の差)とDairy Oneでは、ME期待乳量の差が0.7Kgと大きな差が認められました。逆に言うと最もリグニンの低い分析値を使った場合には、エネルギー価を過大評価している可能性があるということです。
表3 各分析センターのリグニン値によるME、MP期待乳量
A分析センター | B分析センター | Dairy-One | |
リグニンの値 | 3.1 | 4.7 | 5.6 |
MEの期待乳量 | 37.4 | 37.0 | 36.7 |
MPの期待乳量 | 37.4 | 37.0 | 36.8 |
今回は新しいTDNの推定式と追加された分析項目についての問題点について考えました。結論として、飼料設計に用いる分析値は同じ分析センターで分析された成分値を継続して用いる方が良いのではないかと思われます。もし、変更する場合があれば、分析センター間の分析値の違いを考慮しながら使用する必要があると思います。また、同一の分析センターで分析方法変更が行われた場合も、同様に、変更内容違いを理解して活用することが大切です。
いずれにしても、この様な変更があった場合は、特に牛の反応を注意深く観察して、問題が無いかどうか判断する必要がありそうです。リグニン、NDICPが北海道でも分析され、粗飼料の品質評価の手段として有効に活用できることは評価すべきことです。今後、分析方法の検討が進み、各分析センター間での差がなくなることを期待しています。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
昨年末、3泊5日の強行スケジュールで、米国のノースカロライナ大学とミネソタ州の酪農家を視察しました。今回の技術のページでは、視点を変え、今回の米国視察について報告したいと思います。米国へは、1988から1990年にかけ、国際農業者交流協会の派米研修生制度で渡米したのが最初で、2回目は4年前にカンサス、ミネソタ、ウイスコンシン州へ行き、そして今回の視察で3回目になります。今回の米国の視察は、岩手と熊本の開業獣医師の方2名、畜産資材メーカーの獣医師の方2名私の計5名の小グループの視察旅行でした。
ノースカロライナ州立大学はマイコトキシンについて意欲的に取り組んでいる大学の1つで今回の訪問目的もマイコトキシンに関する最新の情報等を得るためです。昨年日本でセミナーを行ったDrスミス氏からノースカロライナ州立大学を案内していただき、その中で、マイコトキシンに関していろいろと話を聞くことが出来ました。研究牧場は、やや古い施設のフリーストール牛舎でしたが、飼槽は個体毎に給与できるようになっており、マイコトキシンの吸着試験や生体に与える影響の調査が行われていました。研究牧場の視察時や、移動時間の車中で説明の要点をまとめると
1)飼料に発生したマイコトキシンの量はサンプリングする場所によって大きく異なるので、分析結果と実際の状況が異なるケースも多い。
2)カビ毒の吸着剤の種類は酵母細胞壁系と鉱物系の2種類に分類され、どちらがより有効かは、カビ毒の種類により異なる。鉱物系についてはかなり古くから研究が行われ、その効果が知られているが、酵母細胞壁系については、比較的最近の研究が多い。
3)原因不明の生産性の低下(乳量の低下、繁殖障害、乳房炎等がある場合)には、2~3ヶ月間はカビ毒の吸着剤を給与することが効果的と思われるが、各農場ごとにカビの種類も違うので、どのような吸着剤を使うかは、臨床症状からは判断できない。
等が重要なポイントであったと思っています。(ただしこのときは、米国に着いたばかりでかなり時差ボケしていました。他にもっと重要な話をしていたかもしれませんが・・・)したがってマイコトキシンを疑い吸着剤を使用する場合、その地域で、効果が実証されているものや、可能であれば酵母細胞壁と鉱物の2種類の吸着材を組み合わせて使用する方が無難なのかもしれません。
フリーストール牛舎
飼槽の給与ボックス
ノースカロライナ州からミネソタ州のミネアポリスへ移動し、そこから車でメルロースへ移動しました。最初におよそ5000頭規模の、酪農場を見学しましたが、育成牛舎とロータリーパーラーのみの視察でした。(泌乳牛舎の方はあまり牛の状態が良くないとの理由で、見学することは出来ませんでした。)育成牛舎は、軒下が高く、換気が良いオープンリッジの作りになっています。換気がよいことは牛舎にとって重要な要素の1つですが、育成牛にはやや寒すぎるのか?冬毛の牛が多いようでした。
育成牛舎の飼槽
飼槽の形態は、日本の肉牛の肥育牛舎で用いられるような飼槽(写真)で、米国では非常に珍しいとのことです。この様な飼槽は餌押しをする必要が無い反面、残飼の処理が非常に面倒であることが予想されます。
ロータリーパーラーは、80頭が搾乳可能なパラレル式のパーラーで、米国では現在、1000頭以上の規模で、新たに酪農場を立ち上げる場合は、搾乳効率が良いため、ロータリーパーラーを選択する農場が多くなっているとのことです。
ロータリーパーラー
デビット・トムシェ氏は、祖父が開業したミネソタ州の動物病院で、臨床獣医師としての仕事を手始めに、コンサルタント、ミルカーの代理店、アウトレットショップの経営、畜産資材の販売等に取り組み、動物病院の方も25人の獣医師を抱える全米最大規模の大動物病院に成長し、現在では、酪農場まで経営する“実業家獣医師”です。酪農場はトムシェ氏が数年前、他の実業家と購入し、現在、搾乳牛は900頭を飼養しています。パーラは18頭Wのパラレルパーラーで、3回搾乳ですが、分娩後3週間までは、別のパーラーで5回の頻回搾乳が行われます。1日1頭当たりの乳量は訪問時に35Kg程度の成績でした。牛群構成はフレッシュ群、経産群、初産群、病牛群に群分けされています。
フレッシュ群
フレッシュ群は、砂のベッドで、定員の約80%の状態で飼養され、分娩後10日間は検温、反芻回数のチェック等の個体管理が行われます。その他の群はマットレスにおがくずのベッドで飼養されていますが、経産牛はベッドに対して定員の約30%程度過密な状態になっています。(この点については改善したいとの話でした。)飼料給与メニューは、フレッシュ群にのみ、バイパスコリン(商品名はリーシュアー)が入っているだけでその他はおなじ内容のTMRで、エサ押しは、1時間毎に1回、24時間体制でやっているとの話には驚きました。
廃棄乳を殺菌する装置
繁殖管理は、積極的にオブシンク法(ホルモンにより定期授精)を取り入れ、妊娠した牛は青、授精中の牛は赤のテイルペイントを用いて色分けし、繁殖管理を行ってます。乾乳牛は、乾乳期間は40日に短縮され、前期、後期ともに同じTMRが給与されます。乾乳前期はフリーストール、後期(分娩前2週程度)は、フリーバーン(設備が十分ではないため、一部飼料倉庫を改造して利用)で飼育され、分娩直前には分娩房に移動されます。現在、乾乳後期は、麦稈を十分敷き詰めた衛生的なフリーバーンで飼養していますが、フリーストールに比較すると乳頭の汚れ等の可能性が高くなることも予想されます。
クロースアップのフリーバーン
したがって乾乳時と前期から後期への移動時には、内部シーラント(乳頭口に直接注入し乳頭口に“蓋”をすることで乾乳期の細菌感染を予防する)を利用して分娩後の乳房炎の発生を防止し、分娩後は、YMCP(日本名ではパートゥリッション(:パートゥリッションとは、分娩後のCa、Mg等のマクロミネラルや、イースト、ビタミン等を補給するためにトムシェ氏が分娩後の代謝病の軽減のために開発した商品:)を給与し、疾病の発生を防ぐように努めています。また、廃棄乳については、簡易の牛乳殺菌装置を使用し、殺菌した廃棄乳を哺乳用として給与しています。古い施設の牛舎でしたが、行われていることは新しい取り組みが多く、参考になりました。
内部シーラント
最近、繋ぎ牛舎から、フリーストールへ規模拡大した農場で、搾乳牛は、約300頭で乳量は34Kg程度、12頭ダブルのへリングボーンパーラで今後の規模拡大に対応できるように作られてます。
すのこ式牛舎(蹄浴槽)
牛舎は“すのこ式”のフリーストール牛舎で泌乳牛は初産、経産、フレッシュ群で構成され、初産、経産は同じTMRであり、フレッシュ群は特別に大豆皮とビタミン、ミネラルが豊富なペレットを加え、TMRを給与しています。飼料設計は、飼料メーカーの栄養士が設計し、トムシェ氏がコンサルタントとして技術的なサポートを行ってます。
帰り通路にあった水槽
この農場では特に水の品質や量に注意しています。パーラーからの帰り通路には、容易にアクセスすることが可能な水槽が設置されており、さらに、飲水は鉄を除去する装置が設置され、鉄分を除去してから与えられています。
牛舎の状態
鉄が多すぎる場合には、乾物摂取量の低下や免疫性の低下など牛に悪影響を及ぼすことが知られています。水質については意外に見落としがちですが、健康維持と生産性の向上には大切な要素と思われます。LANDWEHR DAIRYは、すのこ式の牛舎で、すのこ式牛舎については、多くの欠点があるようですが、ベッドメイクの状況や、牛舎内の清潔さ、牛の状態などについては非常に良い印象を受けた農場でした。
搾乳時のベッドメイキング
今回は3つの酪農家を視察することが出来ましたが、視察を終わり、雑談の中で乳価の話になりました。昨年の12月の時点でトムシェ氏の販売乳価は1001b当たり、16$(約37円/Kg)とのことでした。彼の話では、現在の乳価は損益分岐点よりも高い価格であるが乳価の低い時期は8$まで下がり、非常に厳しい経営を強いられる時期もあると話していたのが印象的でした。今回の米国視察は3泊5日の強行軍でしたが、短いなりに集中出来たので良かったのかもしれません。ただ、また米国へ行く機会があれば、もう少し長く滞在し、じっくりといろいろな話が聞ければよりよい報告ができるかと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
前回、前々回と繁殖成績について解説しましたが、計算式や専門用語も使いましたので、少し難しい内容になってしまいました。今回は、話題を変えて久しぶりに弊社のユーザー紹介をしたいと思います。今回は、乳検で経産牛1頭当たりの乳量が12,600Kgの成績で、最近では黒澤賞も受賞された大樹町の山下牧場について紹介してみたいと思います。
山下牧場は、経産牛約40頭つなぎ牛舎で、分離給与にて管理しています。平成13年に経営移譲を受けた山下博氏は“家族がそれぞれ役割を持ち、酪農経営については家族で十分議論したうえで、共通の目的に向かっていく”ことを目指し酪農に取り組んでいます。その結果、平成13年12月(2001年)時点では、経産牛1頭当たりの乳量が9765Kgであった牛群が現在では12630Kgへと飛躍的に増加しており、乳成分も乳脂肪率4.0%、乳蛋白質率3.28%で、体細胞も12万程度で、乳質も良好な成績を維持されています。(山下氏は、これまで何回か紹介している酪農DBを活用されていますので、今回はそのデーターを用いました。)
平均経産牛頭数 | 平均搾乳牛頭数 | 搾乳牛1日1頭当り乳量 | 平均乳脂率 | 平均乳蛋白質 | 平均無脂固形分率 | 1頭当たり成績 | |||
検定日 | 42.0頭 | 38.0頭 | 34.5Kg | 4.12% | 3.47% | 9.08% | 補正乳量平均 | 14659Kg | |
過去1カ年 | 40.9頭 | 36.6頭 | 38.7Kg | 3.87% | 3.33% | 8.92% | 経産1頭当り乳量 | 12630Kg |
平均経産牛頭数 | 平均搾乳牛頭数 | 搾乳牛1日1頭当り乳量 | 平均乳脂率 | 平均乳蛋白質 | 平均無脂固形分率 | 1頭当たり成績 | |||
検定日 | 35.0頭 | 30.0頭 | 32.1Kg | 4.27% | 3.27% | 8.86% | 補正乳量平均 | 10730Kg | |
過去1カ年 | 36.3頭 | 31.8頭 | 30.4Kg | 4.00% | 3.30% | 8.90% | 経産1頭当り乳量 | 9765Kg |
経営移譲に伴い、個々の産乳能力を現状の飼養形態を活かして最大限発揮するために平成13年4月から既存牛舎のリフォームに取り組みました。
既存牛舎のリフォームの具体的な改善は
①飼槽をレジコンにて改良
②牛床マットを設置
③トンネル換気を行う
④ニューヨークタイストールに変更
⑤連続水槽の設置
牛舎のリフォーム5点セットに着手。
それにより、クリーン、ドライ、コンファタブルな環境を牛に提供することが可能となりました。この改善から、徐々に乳量が伸び始めたと話されていました。また、弊社に牛群の飼料設計の依頼があったのもこの時期からです。
牛舎のリフォームにより牛が快適になり乾物摂取量が上がった効果に加え、飼料設計等を行うことで粗飼料の変動に対してバランスの取れた飼料給与方法を考慮した結果、より効果的に産乳量が伸びたと思われます。
現在、山下牧場の給与体系はグラスサイレージ、コーンサイレージ、ロールサイレージの粗飼料、綿実、加熱大豆、圧ペンコーン、大麦、ビートパルプの単味飼料と配合飼料(CP20-TDN76)が分離給与体系にて給与されています。したがって、特に変わった品目を使っているわけではありません。ただ、サイレージについてはとくに注意して管理されているようです。牛にとって最も重要な飼料は、”粗飼料”であり、サイレージを給与する場合はその栄養価だけでなく、発酵品質も生産性を左右する大きな要因の一つです。
山下牧場のサイレージは適期に刈り取りされ、バンガーサイロでしっかり踏圧された発酵品質の良好なサイレージが貯蔵されています。また、サイレージを取り出す場合も、サイレージカッターを使い、牛舎に移動された給与前のサイレージもサイレージカッターで切り出した姿でおかれ、牛の口に入るまでサイレージの2次発酵が最小限となるよう努力されています。
乾乳牛・育成牛は泌乳牛は別棟の牛舎で飼われており、育成牛は、ハッチで約2ヶ月個体管理された後、フリーバーンで各ステージ別に群分けされ飼育されています。育成牛舎にはパドックもあり、運動が出来るように管理されています。飼料給与については、可能な限り1番のグラスサイレージと飼料中の蛋白質が充足するように考慮された給与メニューにより、フレームサイズの大きい育成牛を目指して飼育されています。乾乳期は基本的には2群に群分けし、フリーバーンで飼育されます。もし乾乳牛が多くなった場合は、乾乳前期の牛を泌乳牛舎に繋ぎ、乾乳後期の牛をフリーバーンで飼育することで分娩直前の密飼を避けるような管理に変更するなど、分娩前の牛にストレスを与えないように臨機応変な飼養管理が行われています。
乾乳牛舎
また、乾乳後期群はCaの給与量を極力減らし、ビタミンE,セレン等を増量した乾乳後期用の配合飼料を給与し、分娩後の低Ca血症の発生等を防ぐような給与方法がとられています。このように泌乳期のみでなく、将来の牛群を支える育成牛や、分娩後の乳量を大きく左右する乾乳後期の牛についても考慮した管理が行われています。
育成牛舎
現状の繁殖成績はどうでしょうか?酪農DBを用いてデーターを比較してみました。平成16年・11月のデータと平成13年・12月のデータを比較してみると分娩間隔は伸びています。(413日から441日へ)また、初回授精も遅くなっている様です(78日から93日へ)。したがって、初回授精の遅れと、分晩間隔の伸びとは関連があると思われます。おそらくピーク乳量の伸びにより以前より発情発見が難しくなったり、授精適期でも、なかなかBCSが回復しないため初回授精が遅れてしまったことや、授精しても受胎しないケースが増えてきたこと等が考えられます。やはり乳量が伸びた影響が繁殖成績の低下につながっているのでしょうか?ただし、繁殖成績の低下については、以前から認識されており、その改善についてはすでに様々な取り組みがされています。酪農DBの活用、きめ細やかな観察、バイパスメチオニン等の使用により、最新の繁殖成績は、平均空胎日数が165日から132日へ短縮され、実際に授精回数も約2.5回から2.3回へ少なくなっています。最近の妊娠鑑定等の結果等が良くなってきたことから、繁殖成績は以前よりだいぶ改善されてきたことを認識していると話されていました。したがって、現在分娩間隔の成績は441日ですが、今後は短くなることが予想されます。
今回御紹介した、山下牧場の栄養濃度は特に栄養濃度が高いわけではありませんが、“泌乳牛における良好なカウコンフォートの実現”、“良質サイレージの給与”、“育成牛及び乾乳期の牛の適切な管理“が実現できた結果、泌乳ピークの牛で体重の4.2%程度の高い乾物摂取量と効率的な生産性が可能となり、現在の飛躍的な乳量の成績の伸びにつながっているのではないでしょうか。これらのことは、重要なことと認識していても実際には、なかなか難しいことなのかもしれません。文頭にも紹介いたしましたが山下牧場は“家族がそれぞれ役割を持ち、酪農経営については家族で十分議論したうえで、共通の目的にむかっていく”ことを経営目標にしているとのことです。この“経営目標”が現在の成績を達成している“秘訣”ではないかと思います。現在、繁殖成績にはやや問題はありますが、この問題も“家族共通の改善目的”として認識されていますので、いずれ改善されていくことでしょう。今回は、大樹町の山下牧場について紹介いたしましたが次回は昨年末、米国の牧場を視察しましたので、そのことについて報告してみたいと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
今回は、発情発見率、受胎率を中心に考えてみたいと思います。
発情発見率の計算式は色々な方法があるようですが、酪農DBでは計算対象牛について、
平均授精回数÷(平均実空胎日数÷21+1)×100
で計算されます。
実空胎日数は、初回授精から最終授精(空胎日数)までの日数で、例えば計算対象の牛(妊娠・未妊鑑の牛)の初回授精が分娩後70.7日で、空胎日数が135.6の場合、実空胎日数は、64.9日(135.6-70.7)となります。
授精回数が2.19回であれば、発情発見率は
発情発見率=平均授精回数÷((空胎日数-初回授精日)÷21+1)×100
=2.19÷(64.9÷21+1)×100
=2.19÷(3.09+1) ×100
=2.19÷4.09×100
=53.5%
となります。
したがって、乳検を行っていれば、初回授精日、空胎日数、授精回数はわかりますので、牛群のおよその発情発見率は計算できます。現在、発情発見率の目標は70%以上とされているようですが、多くの酪農家が50%~60%の場合が多いようです。発情発見率が60%以上であれば繁殖成績の向上につながると思われます。(当然70%以上であればもっと良いのでしょうが・・)ただし50%以下の場合は、牛群の分娩間隔が長くなる傾向があります。
発情発見率が低い場合の原因を考えると
①発情行動に問題はなかったが、単純に発情をみのがしてしまった
②発情があったとしても、発情行動が微弱で解らなかった
③発情は発見できたが、何らかの理由で授精できなかった
④授精後、受胎したが早期に胚が喪失(妊娠が維持できなかった)したため、 発情周期が延びてしまった
等の理由が考えられます。
したがって単純に発情発見の精度を表す指標ではありません。酪農DBでは、授精の間隔は棒グラフで、視覚的に読みとることが出来ます。初回授精で受胎しなかった個体の授精間隔は、意外に長いことや、特に初回授精と2回目の授精間隔が長い個体が多いこと等が解ります。これは、今回御紹介した農場のみでなく多くの牧場でそのような傾向がみられます。したがって、初回授精で受胎しない牛は、結果的には、発情発見率が低い牛で、その結果、繁殖成績が悪い牛になってしまう可能性が大きいと思われます。
①発情行動に問題はなかったが、単純に発情をみのがしてしまった
②発情があったとしても、発情行動が微弱で解らなかった
単純な見逃しや、発情行動が微弱で、なかなか発情を発見できない場合、万歩計や補助器具(ヒートマウントディテクター、テイルペイント等)を使用し発情発見率を上げることが可能です。実際に万歩計を導入されてから、発情発見率が50%から60%へ上がった牛群もありました。
牛群が大きくなり、フリーストール化が進めば、1頭当たりに対する発情発見にかける時間も短くなり、さらに牛自体も繁殖生理が変化してきたとすれば、人の観察だけでは限界があるのではないかと思います。したがって補助器具を有効に使うことで発情発見率を上げることは、効果的と思われます。
また、泌乳初期の栄養状況に問題ないようであれば、オブシンク等のホルモン処理を用いた定期授精プログラム等を利用することも、発情発見率の向上につながります。ただし、暑熱ストレス等で、牛の行動が活発でない場合や、蹄病、また、床が滑りやすい、足場が悪いなどのカウコンフォートに問題がある場合は、発情行動は低下してしまう事があるようです。そのような場合は、管理上の問題をあわせて考慮する必要があります。
③発情は発見できたが、何らかの理由で授精できなかった
発情は見つけているのだけども、授精できない場合については、移行期から泌乳初期の牛の分娩状況、飼養管理、乳量、乳成分、乾物摂取量、BCSなどを検討し、原因を推察し、栄養管理や初回授精の時期を含め現状を改善する必要があります。
また、牛が発情行動を示した場合でも、直腸検査で卵胞の状況が悪いとの理由で授精できないケースもあるようですが、牛群の状況によっては、発情行動を示したら積極的な授精を心がけることも必要ではないかと思います。
④受胎後、妊娠したが、早期に胚が喪失(妊娠が維持できなかった)し、授精後の発情周期が長くなってしまった場合
これについては、受胎率の項で考えます。
受胎率は、酪農DBでは、
受胎頭数÷妊娠した牛の授精回数
で算出し、目標は50%~60%以上とされます。
現在牛群の受胎牛は23頭で、その合計の授精回数は44回となりますので
受胎頭数(23)÷妊娠した牛の授精回数(44)=52.3%となります。
受胎率に関しても、乳検の個体データー等があれば、妊娠している牛の授精回数の合計から受胎率を求めることが出来ます。
また、妊娠率は発情発見率×受胎率で計算されますので、もし、発情発見率が改善されても受胎率が下がれば、妊娠率は変わらないことになってします。
一般的に、発情発見率が上がれば、受胎率は下がるような関係にあります。
①授精適期に人工授精されなかった
②人工授精の手法に問題があった
③暑熱ストレス、乳房炎等の影響で受胎しなかった
④栄養障害
等が考えられます。
①授精適期に人工授精されなかった
以前から、朝発情を見つけたらその日の午後に、夕方発情を見つけたら次の日の朝に人工授精をする方法が取られていましたが、現在ではこの方法を見直すべきだと言われています。それは、高泌乳牛での発情の持続時間が短くなったことにより、これまでの方法で授精を行っては、授精適期よりも遅くなってしまう場合があるからです。したがって受胎率の低い牛に関しては、現在行っている授精のタイミングを再度、検討して見る必要があります。
②人工授精の手法に問題があった
凍結精液の取り出し、精液の融解温度と時間(35℃で約40秒で融解)、精液注入器の装着、牛の清掃と消毒(外陰部をきれいに拭き、アルコール綿で消毒してから、授精)等の授精方法は、常に基本に忠実に行うことが大切です。また、飼養頭数の増加や繁殖の定期検診後、PG等を使うことによって、数頭同時に授精する機会が増えてます。一度に3本以上の精液を融解する場合3本目の精液の受胎率が下がる事が知られています。再度、人工授精の基本を見直しましょう。
③暑熱ストレス、乳房炎等の影響で受胎しなかった
暑熱ストレスがある場合、特に早期胚の死滅の確率が高くなる事が知られ、ヒートストレス時には人工授精よりも、受精卵移植へ切り替えた方が高い受胎率を得られるとの報告があります。また、乳房炎が、繁殖成績に悪影響をもたらすことが、知られています。作用機序はそれぞれ異なると思いますが、何らかの“ストレス”が、繁殖成績に悪影響を与えていることも認識する必要があります。
④栄養バランスに問題があり、受胎しなかった
酪農家からの相談で“エネルギー不足、蛋白過剰で、受胎しずらいのでは?との話が一番多いように思います。実際に、ある酪農家で、卵巣嚢腫の多発と不受胎が急激に増え、その原因が一時的な蛋白過剰が原因と思われる事例がありました。このケースは、大豆粕の増給により、急激に蛋白摂取量が増加した結果、卵巣嚢腫と不受胎が多発したのではないかと思われました。
また、分娩直後から泌乳最盛期にかけては、ほとんどの牛が生理的に負のエネルギーバランスなります。したがって、その時期をいかに短くしていくかが、繁殖成績の関連の中で最も重要と思われます。
また、飼料計算ソフトのCPMデーリーの最新版では、飼料の脂肪酸の組成まで、考慮した飼料設計が可能になり、特にリノール酸について、その適切な給与量のガイドライン等も示されるようになりました。
リノール酸は、PG、黄体ホルモンの等の性ホルモンの合成に関与し、繁殖成績を改善する可能性があることが示され、実際にバイパスリノール酸の含有量が多い商品もかなり使われるようになっています。ただ一方では、乾物摂取量を低下させてしまうことも指摘されており、“繁殖改善の切り札”になりうるかどうかは、今後さらに研究が必要かと思います。
結局、栄養的な問題については、定期的に粗飼料の分析値を行いながら、牛群のバルク乳の乳成分や、乳検の成績、BCS、実際の給与状況、管理状況、カウコンフォート等を検討し、机の上の飼料設計による栄養と実際に牛が摂取する栄養も考慮して、現状の問題点を解決していくことが重要だと思います。
前回と今回は“繁殖成績の改善”をテーマに取り組みましたが、酪農家に存在する繁殖問題には、栄養、環境、授精の技術、カウコンフォート等色々な要因が複雑にからみあっており、色々な角度から、現状の改善策を検証していく必要があります。
したがって、“繁殖成績の改善”に取り組む場合、酪農家を中心に”人工授精師““獣医師”“普及員”“飼料設計者”等で、色々と検討する機会を設け、各専門分からの意見を集約して問題の解決にあたれば、繁殖のみではなく農場に存在する色々な問題の解決について、効果的ではないかと思っています。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
全道各地の酪農家のユーザーの相談のなかで、“発情が来ない、見つけにくい、止まりが悪い、卵巣嚢腫の牛が多い”等、繁殖に関する相談を受ける事が多く、規模や乳量の成績等に関係なくすべての酪農家の最大の関心事ではないかと思っています。
今回は、実際の酪農家での乳検データーの解析も交えながら、繁殖成績の向上について考えてみたいと思います。
以前、アメリカのカンサス州にてスティーブンスン教授から“繁殖のマネージメント”の講義を受けました。その講義のなかで、乳量と受胎率の関係についてアメリカで調査した結果、乳量は年々右肩上がりに伸びている一方で、受胎率は1970年の55%から徐々に下がり始め1980年代後半から急激に低下し、2000年には32%まで下がってきていることが説明されました。繁殖成績の低下についての推察される要因として
①牛群が年々大きくなり、人手不足で発情発見等に十分な時間がかけられないこと?
②牛そのもの生理的な変化等が考えられること?
の2つがあげられました。
特に牛の生理的な変化については、1980年頃と1990年後半の牛での繁殖成績の試験で、性周期や黄体期が2日伸びている報告があることを話されていました。
形質 | 1975-1982 | 1995-1998 |
受胎率、 % | 55.6 | 39.7 |
非定型卵巣ホルモンパターン、 % | 32.0 | 44.0 |
黄体退行の遅延、% | 7.3 | 18.2 |
平均発情周期、 日数 | 20.2 | 22.3 |
発情周期の平均黄体期間、 日数 | 12.9 | 14.8 |
分晩後の初回排卵までの平均間隔、 日数 | 27.4 | 27.9 |
初回授精までの平均間隔、 日数 | 74 | 77.6 |
分晩間隔、 日数 | 370 | 390 |
(参考文献:ホーズ・デーリーマン 2001年 9月号より)
北海道でも「社団法人 北海道家畜人工授精師協会」調査によると、1990年には初回授精の受胎率が57.6%であったものが、1996年には52.4%と年々低下して傾向にあることが報告されています。
北海道でも“最近の牛は乳量は出るが、発情行動がはっきりしない、止まりが悪い”等の問題は、アメリカとおなじような要因が関与しているのではないかと思われます。
実際に年々繁殖成績が低下していく傾向の中、いかに繁殖成績を上げて行くかについて色々な取り組みが行われているようです。ただ、結論として言えることは繁殖成績が良くなる“魔法の薬”はありません。したがって繁殖成績の向上のために、最も重要で基本的な3つの項目を取り上げ、実例を示しながら考えて見たいと思います。
最も重要で基本的な3つの項目
①初回授精日を適切な時期に設定する
②発情発見率を上げる
③受胎率を上げる
分晩後の初回授精を適切に設定することが大切です。まずはVWP(授精待機時間)について考えましょう。
VWP(授精待機時間)とは、分娩後授精を開始する時期で、乳検による分娩後の乳量変化や獣医師による分晩後の定期検診等で卵巣や子宮の回復状況の経過を見ながら酪農家自身が個々の牛に対して設定するものです。
VWPは、一般的には分娩後60日~80日程度が推奨されています。
したがってVWPを60日と決めた場合、もし分娩後40日目に発情が来ても授精せずに次の発情を待つことになり、またVWPを過ぎても授精できない状態が続く場合には、何らかの対策を考える必要があります。実際には、VWPを個々の牛に対して決めて初回授精を行うことは少なく、分娩後40日~60日以降に良い発情が来たら、とにかく授精するケースや、発情が来ない、あるいは良い発情がきても何らかの理由で授精出来ない個体は、結局初回授精がかなり遅れる個体になると思われます。
実際に、前々回御紹介した酪農DBを使って初回授精日について具体的に考えていきたいと思います。
酪農DBは乳検データーを基に目的の項目をグラフ化することで、視覚的に理解し易いようになっています。今回題材となる山本牧場(広尾町・山本喜久男様)は、繋ぎ牛舎で経産牛約55頭を飼養し、分離給与のスタイルでありながら経産牛1頭当たりの乳量が平成15年度の乳検で11000Kgを越えました。また今年から自動給餌期を導入され、さらに生産性の向上を目指し積極的に邁進されている牧場です。
繁殖状況のグラフは、個々の牛の空胎日数を示し、妊娠牛した牛は青、授精中で妊鑑していない牛は赤、授精していない牛は緑で、空胎日数の長い順に並び替えています。また、各グラフ内の黒線は授精を表します。例えば青のグラフ240の牛はすでに妊娠した個体で、分娩後約70日で初回授精が行われ、分娩後約260日で5回目の授精時に妊娠した個体であることを示しています。また、グラフの下の表は繁殖成績を表し、“妊娠牛”、“妊娠牛と未妊鑑牛”、“牛群全体”の3つの区分ごとに繁殖成績を知ることが可能です。この様に酪農DBを活用することにより、分かりやすく簡単に乳検データーを加工して全体の繁殖状況を大まかに判断することが出来ます。
実際に山本牧場の初回授精日をみていきましょう。
牛群の初回授精日(妊娠・未妊鑑の牛)の平均は70.7日で、一般的な推奨値の範囲に入っています。個体の成績は、分娩後50日以内の授精はなく、初回授精が分娩後100日以上経過して行われた牛は1頭のみです。また現在分娩後100日以上経過して授精が行われていない牛はいないようです。したがって、個体のばらつきを見ても大きな問題はないと思われます。
現在、酪農DBを見させてもらっているユーザーが30戸ほどいますが、一般的に初回授精はかなりばらつき、しかも遅い傾向にあります。今回紹介した山本牧場が最も初回授精日のばらつきが少なく、初回授精が適切な範囲にある酪農家でした。
注意すべき点は、酪農家の中には個体でみると初回授精は60日~70日に集中していても、分娩後150日以上経過して授精する個体が数頭いるために、結果として牛群の平均を上げ、平均の初回授精日が80日以降になっている場合もあります。したがって平均のみでなくばらつきも考えることが大切です。
現在、「北海道酪農検定検査協会」の報告では平成15年の全道平均の初回授精日の平均は95日、空胎日数は149日となっています。山本牧場の牛群の初回授精日は70.7日で、空胎日数は117日です。初回授精日が適切な時期に行われていることが、乳量の高い牛群にもかかわらず、さほど繁殖成績がわるくなっていない要因の1つだと思われます。(全道の酪農家の中には、もっと良い成績の牧場もあるかと思います。)
次に、乳検データで分娩後の乳量、乳脂肪率、乳蛋白率、MUNの動きについてみてみましょう。乳蛋白質を見てますと、泌乳前期で乳量が60Kgを記録している個体は3.0%以下でエネルギー不足が推察されますが、50Kgの乳量を生産している個体については3.0%以上を維持しているようです。乳脂肪率は、やや低い傾向にあるようで季節的な影響や、粗飼料不足等が考えられます。ただし、乳脂肪については乳検データーとバルク乳の旬報データーで値が違う場合があるので、両方のデーターを比較した上で、再度現状の給与量等をチェックする必要です。MUNは平均が9.1mg/dlで個体のばらつきも少なくエネルギーと蛋白質のバランスも良好と思われます。
以上のことから、分娩後から初回授精にかけての管理が良好なことに加え、発情の発見を注意深く行うことで、経産牛年間平均乳量が11000Kgを超える牛群であっても、分娩後70日程度での初回授精が可能となっているのでしょう。また今年になってから、自動給餌機を導入したことにより、実際に給与された濃厚飼料の量にくわえ、粗飼料の量まで個々の飼料給与量が分かるようになりました。
下の表は4月、5月の乳検時に分娩後60日以内の経産牛をリストアップし、その乳量と実際の給与量、粗濃比を調査したものです。分娩からほぼ順調に乳量が伸び、同様に乾物摂取量も増加しています。
今後は、分娩後から個々の個体の乾物摂取量の変化も繁殖成績を考慮する際に活用できるのではないかと思います。
*乳量が50Kgを越えた個体の中には乾物摂取量が28Kgもある牛もいました。
この様な牛が乳量は高くても、乳蛋白率を3.0%で維持し、あまりBCSの低下もなく、しかも繁殖成績が良い牛なのかもしれません。
産次 | 分晩後日数(日) | 乳量(Kg) | 乾物摂取量(Kg) | 粗飼料割合(%) |
5 | 7 | 30 | 16.7 | 47.3 |
2 | 7 | 47.7 | 15.8 | 40.9 |
3 | 10 | 44.8 | 17 | 41.4 |
2 | 15 | 35.5 | 18.5 | 39.7 |
2 | 22 | 48.2 | 19.2 | 33.7 |
5 | 31 | 57.8 | 22.8 | 37 |
2 | 35 | 44 | 25.6 | 38 |
4 | 39 | 50.2 | 25.6 | 38 |
2 | 39 | 46.5 | 23.9 | 32.9 |
2 | 59 | 44.2 | 25.9 | 44.4 |
3 | 60 | 47.4 | 26.4 | 41.2 |
4 | 63 | 50.8 | 28.1 | 40 |
今回題材にした農場は、泌乳量が高い牛群であり、初回授精日は、60日~70日に集中しているようです。牛群の繁殖成績の向上の方法として“泌乳前期の乳量が高く、乳蛋白質率の回復が遅れ、乾物摂取量が低くBCSの回復が遅れている個体”については、“分娩後の発情の周期の開始はいつか”“何回ぐらいの発情が見られたか”、の観察結果を組み合わせることにより、他の牛よりもVWPを長くし(例えば80日にVWPを設定)、ホルモンプログラム等も使って初回授精を行うことで、初回受胎率が向上し繁殖成績が向上するかもしれません。
繁殖成績の向上のためには、ただ単に初回授精を早めるのではなく、個々の個体の能力を見ながら、適切な時期に初回授精を実施することが大切なのではないでしょうか?
今回は初回授精日とVWPについて考えてきましたが、次回は発情発見率と受胎率について考えたいと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
昨年、酪農関係の講習会や酪農雑誌等で色々な酪農技術に関する技術情報がとりあげられましたが、今年最初の“技術のページ”では、その中でも“乾乳期間の短縮”と“NDFの消化率”について、実際のデーター等を用いながらその話題について考えてみたいと思います。
昨年行われたウイルアムマイナー研究所主催のトレーニング講座や、ホーズデーリーマン183号(2003)等でも現在アメリカで注目されている酪農技術として紹介されました。
実際、これまで一般的に乾乳期間は50~60日は必要で、もし短い場合は次回の泌乳期の乳量が減少するとの認識がありました。確かに北海道酪農検定協会の個体の305日間成績、”産次別・乾乳日数別乳量“のなかで、そのデータが示されています。
(参考文献:平成13年度 個体の305日間成績 vol.26 社団法人 北海道酪農検定検査協会)
*乾乳日数が50日未満で、乾乳期間が短いほど次期乳量の低下が大きい
しかし、最近の研究では乾乳期間を短縮しても次期産次の乳量に影響はないとの報告もあるようで、アメリカでは、実際に乾乳期間を42日~45日にして(もっと短い場合もあるようですが)出荷乳量を伸ばしている、酪農家もいるようです。
この違いは何処にあるのでしょうか。
乾乳期が短くなってしまって次期産次の乳量が低下してしまった個体は、早産や、授精記録等の間違い、乾乳するのを忘れたなど、意図的に乾乳期間を短くしたのではなく、結果としてそうなってしまった場合がかなりあるのではないかと思われます。つまり、乾乳期の飼養管理が不十分なまま分娩を迎えた結果、次期の乳期の成績が不振であった牛がいたのではないかと推察しています。
実際に、経産牛の年間平均乳量が10300Kg、分娩間隔が400日で、搾乳率87%、1群TMRの某フリーストール牛群で乾乳時の乳量(乾乳直前の乳量ではなく、乾乳される前の最後の乳検の記録)と分娩直後の乳量(分娩後最初の乳検での記録)を比較してみました。
番号 | 産次 | 乾乳日数(日) | 乾乳前の乳量(Kg) | 分娩後の乳量(Kg) | ピーク乳量(Kg) | 分娩間隔(日) |
1 | 4 | 43 | 33.0 | 63.7 | 63.7 | 386 |
2 | 4 | 28 | 22.3 | 48.6 | 48.6 | 351 |
3 | 3 | 40 | 16.0 | 33.0 | 50.6 | 347 |
4 | 2 | 42 | 31.5 | 42.3 | 46.1 | 350 |
5 | 2 | 17 | 22.3 | 33.1 | 39.4 | 374 |
6 | 2 | 26 | 19.9 | 23.0 | 23.3 | 373 |
7 | 2 | 48 | 30.1 | 50.1 | 55.0 | 345 |
8 | 2 | 49 | 17.6 | 33.3 | 35.4 | 329 |
9 | 2 | 49 | 25.7 | 30.7 | 47.2 | 339 |
乾乳前の乳量:前産次の乾乳前の最終の検定乳量
分娩後の乳量:今産次の分娩後の最初の検定乳量
1群FS 搾乳牛65頭 乳検成績 年間平均乳量 10300Kg
搾乳率 87% 平均 乾乳日数56日
空胎日数 120日 分娩間隔 400日
乾乳は2群管理
分娩後の乳房炎になる個体はいる。
繁殖成績が良く、乾乳直前の乳量が高い個体は実際には乾乳期は50日以下になっている牛が多い。
この結果を見ると、乾乳日数が40~50日程度の牛でも高い乳量を示す牛がいることが理解できます。また、そのような牛は分娩間隔が短く、乾乳直前の乳量も高い牛が多いことも解ります。ただし乾乳日数が30日以下の場合になると次期産次の乳量が低い個体が多いようです。乾乳日数が30日以下の個体が乾乳期の管理が不十分なまま分娩してしまった個体と考えられます。
乾乳期間が40~50日であった牛で分娩後問題なかった個体は、乾乳期間は短くても、分娩2週間前にはクロースアップへ移動され、分娩のための十分な飼養管理がなされていたことが考えられます。
また、今回のセミナーでDrジョンソンは乾乳時に乳量が20Kg以上の泌乳を行っている牛の場合、乳頭口が80日以上開いており、乾乳時に乳房炎への感染のリスクが高くなることを説明し、その対策として乾乳の1週間前に“乾乳直前グループ”を作り藁(ストロー)と適切なミネラル、ビタミンを給与し産乳量を強制的に低下させる方法を紹介しています。
したがって従来の乾乳期間(60日)で、乾乳期を迎えたとき、乳量が高い牛の場合、乾乳直前グループによる乾乳期の短縮は、経済性の向上だけでなく疾病の予防にも役立つことになります。この技術は繋ぎ牛舎では、すぐに応用が可能ではないでしょうか?
ただし、すべての牛に適応するわけではなく、この様な技術を取り入れるためには、繁殖状況が良く、乳量の高い牛がその条件とされるでしょう。実際、乾乳期の短縮については、乳検データにおける個体の成績や乾乳期の管理状況等を考慮し、条件を満たしている牛について試験的に取り入れてみたらいかがでしょうか?
2001年にNRCが改定され、講習会や酪農雑誌等でその改定された内容や、新しい考え方が紹介されています。TDNの計算式も乾物摂取量、使用する飼料の組み合わせ等でエネルギー濃度が変化するようなシステムに変わっていますが、基本的な計算式は
TDN=tdNFC+tdCP+tdFat+tdNDF
で示され、それぞれ真の消化率を出すために必要な分析項目や、穀類であれば加工方法などエネルギーを算出するためにより多くの要素が考慮されています。
この計算式の中で特に消化率の変動が大きいと思われるのはNDFの消化率ではないでしょうか?
tdNDF(可消化NDF)は、NRCでは下記の式で算出されます。
tdNDF =0.75×(NDFn-L)×{1-(L/NDFn)0.667}*NDFn=NDF-NDFIP(NDFに含まれているCP)、L=リグニン
したがって、NDFの消化率(以下NDF-d)は、リグニンやNDFIPがわかれば、計算可能となります。
現在、日本の分析センターではNDF-dについての分析は出来ませんが、アメリカのDairy One(以前のニューヨークDHI)ラボでは、NDF-dについての分析が可能です。
そこで今回、ユーザーからの要望によってグラスサイレージ1番のNDF-dについて分析を行いましたので、その結果についてお知らせしたいと思います。
現在、Dairy oneに分析を依頼すると、ほぼ10日前後で分析値の結果が分かります。また現在ではNRC2001対応のエネルギー価についてもコメントされていますので、興味のある方は分析を依頼されたらいかがでしょうか?
今回送ったグラスサイレージの30時間のNDF-d(NDFD 30 hr:In vitroでルーメン溶液とバッファーを使って30時間培養し消化率を求める方法)は、65%(NDF中の割合)でした。現在この値を評価する方法がわかりませんので、2001~2003年にDairy oneで行われたグラスサイレージの分析値447の結果と比べてみました。
なおDairy oneでは、最近分析を行った飼料(粗飼料、濃厚飼料ともに)を各項目別に集計しそのデータをホームページで検索できるようにしています。
今回、比較したデータはこのホームページから入手したデータを用いています。
Dairy oneの分析値の平均は61.8ですから、平均よりも高い値であったことになります。現在NDF-dのガイドラインがどれくらいなのか分かりませんが、Dairy oneで分析を行ったグラスサイレージのなかでは良いと評価しました。
今後も同じ農場で粗飼料の変更に伴い継続的にNDF-dを分析し、各グラスサイレージの変更に伴う乾物摂取量や、乳成分、乳量等の変化を評価していけば個々の農場におけるNDF-dの評価や、ガイドラインの作成なども可能となるのではないかと思います。
現在、北海道の場合、ホクレン、十勝農協連等で粗飼料分析でOCW(飼料中の総繊維)、OCC(細胞内容物:蛋白質、脂肪、糖、デンプン、有機酸)が分析され、さらにOCWはセルラーゼ処理によってOa(高消化性繊維)とOb(低消化性繊維)に分類されます。したがってOa分画の多い粗飼料は消化性が良いことになります。
もし継続的にNDF-dを分析出来なければ、Oa分画に注目してみるのが、その代案として考えられます。また、今後、実際のフィールドでの応用としては収穫時にNDF-dを分析し、NDF-dの高い粗飼料を、分娩直後~泌乳ピークを迎えている牛や、夏場乾物が低下するような場合に使用する給与形態を考慮することなどで、より消化性の高いサイレージを有効に使用する給与体系も可能になるかもしれません。
NDF-dについては、飼料設計等に組み込むような試みも行われるかもしれません。今後もより多くの情報を集め、実用的な活用方法について検討していきたいと思います。
今年も、今回紹介した技術情報や、現場に役に立つ情報をお伝えしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
冬季では日が暮れるのが早くなっているため、夕方に酪農家のお宅を訪問すると夜と変わらないほど牛舎内が暗くなっているケースが見られます。中には、照明を点灯させ、一日のうちで一定の時間は牛舎内を明くなるようにしている酪農家も見受けられます。このような取り組みを行っている酪農家にお話をお聞きしたところ、冬季の短日周期を照明によって長日周期に変えることで、乳量のアップ等生産性の向上を期待しているとのことでした。
人為的な光周期コントロールは養鶏や園芸等の分野ではすでに実用化され、生産性を向上させる技術として活用されています。一方、乳牛では、一部アメリカ等の海外の酪農家において実践されており、経済的な効果も認められているようですが、日本において本格的に取り組まれている方は少く、技術情報もさほど多くないのではないかと思われます。
今回は、この光周期のコントロールをテーマにしてみたいと思います。
アメリカで光周期コントロールの文献( John P. Chastain、Supplemental lighting for improved milk production)を要約してみると光周期コントロールの手法は
1)16時間~18時間連続して明るくし、6時間~8時間暗い時間を作るようにコントロールする事
2)照度は飼槽エリアを10~20フットキャンドル(fc)にすること
※(1fcは、10.8ルクス)
このような牛舎照明により光周期を人為的に操作することで生産性の向上が見られたとしております。光周期コントロールの効果として
①乳量が8%ほど(5%~16%の幅が見られる)増加した
②乾物摂取量は、6%ほど増加した
③乳牛にたいしてマイマスの影響は無かった
④育成牛にたいして性成熟や成長が早くなる
などのような反応が認められることを報告しています。
しかしながら最近の研究では、牛は一日の多くの時間ベッドに横臥しているということを考慮すると、照明は飼槽エリアだけではなく牛舎全体を明るくする方が効果的だとの意見もあり、その場合牛舎全体が15fcの強度で照明されるべきとしています。(ガナー ジョセフソン、ホーズデーリーマン176号、2002等)
この時の照度は、牛の目線の高さ(90cm)で測定する事としており、照度が10fcであっても生産性の向上が認められるレベルとしていますが、埃や汚れで照明強度が低下することなども考慮したうえで、推奨値を15fcとしたようです。
また、フリールトール牛舎においては鎖などで吊り、各照明器具をコードとプラグを使って設置し、照明器具の交換や掃除等も考慮したうえで設置する事も適切な照度を効果的に保つポイントとしてしています。さらに、最近の研究では乾乳牛においては泌乳牛とは逆に、短日周期にした牛の方が、長日周期の牛よりも分娩後により高い乳量であったことも紹介しています。
繋ぎ牛舎で光周期のコントロールに取り組まれている豊富町の鈴木氏の牛舎の実例を御紹介いたします。
鈴木氏は経産牛約70頭を飼養し、対尻式の繋ぎ牛舎でニューヨークタイストールの連続水槽やトンネル換気などを実践されています。さらに新しい取り組みとして光周期コントロールにチャレンジしているとのお話でした。
現在の光周期のコントロールの手法として約16時間明るくし8時間暗くする方法(タイマーは用いていない)をとっています。現状では照明時間をコントロールしただけで照度が十分ではないため、生産性の向上がはっきりとしないのではないかとのお話でした。
そこで、筆者は実際どれぐらいの照度であるか、照度計(写真1、2)を用いて測定することにしました。一般的に、繋ぎ牛舎では蛍光灯を使用している場合が多く、鈴木氏の牛舎においても蛍光灯を用いております。(写真3、4)。
写真1
写真2
写真3
写真4
現在、照明器具の数はベット4つに1つの割合で蛍光灯(36W、110cm、昼光色40型の蛍光灯1個使用)が設置されています。今回は最も明るい場所と暗い場所の照度を測定してみました。
蛍光灯の照明が最も高いと思われる牛の前(牛が立った時の目線の位置)の照度は13fc、飼槽の面で7.4fcと、現状で最も明るいと思われる場所も十分な照度(15fc以上)には若干足りないようです。
また、蛍光灯の照度が低い場所では、牛の前でも5.6fcの照度しかなく十分な明るさが確保されていませんでした。
このようなことから、今後鈴木氏は飼槽側に蛍光灯を移動し、さらにベット2つに蛍光灯1つの割合で設置し、(現在の倍の数)適切な照度を確保出来るように照明設備を改善するとのお話でした。
【ケース1】
山家氏は光周期コントロールに取り込まれて3年目になります。しかし、光周期コントロールを始めてから乳量の伸び等など効果があったかどうかについての判断は難しいとのお話でした。現状のフリーストールでの設置の状況は写真5、6のようになっています。
光周期コントロールに取り組む前には蛍光灯のみのフリーストールでしたが、光周期コントロールを行う際、蛍光灯のみでは照度が足りないと判断し、水銀灯を飼槽側に4カ所増設して、タイマーにより16時間明るく8時間暗くなるように光周期コントロールを行っています。
現状の照度がどれくらいか、午後3時と午後6時(日没後)に実際に測定してみました。牛舎内において、午後3時に照明を点灯し照度を測定してみた結果、水銀灯を設置した場所の直下では19.4fcの明るさがありましたが、少し離れたベッドでは7.8fcの場所もありました。また、午後6時の日没後では、水銀灯の直下場所では、11fcを確保できているものの、ベッドでは3fc程度しかない場所もありました。(ちなみに午後3時に屋外で照度を測定しましたが、今回用いた照度計では最大で3000ルクス(277fc)まで測定できるのですがそれ以上の照度があり測定不能でした。屋外の照度は、非常に高いことが認識できました)
【ケース2】
羽石氏も山家氏とほぼ同時期に光周期コントロールに取り組まれており、結果として乳量が若干ではあるが伸びているのでは?とのお話をされておりました。羽石氏も山家氏と同様にタイマーを用いて時間をコントロールし、照度は取り付けの際に測定し飼槽側がだいたい10fc以上にとなるよう、蛍光灯に加え水銀灯を8個取り付けたとのお話でした。(写真7、8)
写真5
写真6
写真7
写真8
羽石氏のフリーストールでも午後6時過ぎから、照度を測定してみました。
山家氏と同様に、白熱灯の下では10fc程度はあるのですが、水銀灯と水銀灯の間では2fc以下の場所もありました。取り付けた時は水銀灯も新しく埃等もついていなかったため、飼槽側全体的では現在よりも照度は高かったのかもしれませんが、その後、水銀灯の能力低下や埃などの付着により照度が落ちたのかもしれません。
今回調査した2つのフリーストールとも、視覚的には非常に明るく牛舎内での照度の差はあまり感じませんでしたが、実際に測定してみると、照度にばらつきが大きいことがわかりました。
今回の調査結果では、推奨できる照度や照明エリア等について明らかにすることはできませんでした。しかしながら、現在推奨されている方法と比べると照度不足や照度エリアが狭いことがわかりました。従って今後新築のフリーストールで試みる場合は、推奨されている照度(牛舎全体を15fc以上に照らす)とエリア(牛舎全体)を明るくできるような照明を確保する必要があります。
具体的には
①スポット的に照らすの照明器ではなく広い範囲で照明できる照明を選択する。
②適度な高さで、効率良く照らすために、屋根からつり下げることが可能でしかも掃除、ランプの交換がしやすいように設置する。
③牛舎全体の照度を計算し、適切な数を配置する。
等を考慮する必要があるようです。
また、現在のフリーストール照明施設を改良して光周期コントロールを行う場合、新しい電気の配線の増設や、照明器具の設置高さや種類(特に蛍光灯を使っている場合)を根本的に見直す必要があるのではないかと思われます。
一方、繋ぎ牛舎の場合、フリーストールほど広範囲に照らす必要もなく、特にキング式牛舎の場合は屋根も低いので、現在の蛍光灯の数を増設する程度で比較的簡単に照度を確保する事ができるのではないかと思われます。
今回の実例のほかにもすでに北海道において光周期コントロールに取り組まれ、生産性の向上が見られる農場もあるかと思います。今後も、このテーマについては、追跡調査等を行い、より正確な情報をお届けしていきたいと思います。
今回ご協力を頂いた酪農家の方々は、非常に意欲的に新しい技術に取り組まれている酪農家の方々であり、今回このような方々のおかげで、光周期コントロールの実例を調査することができました。あらためて感謝申し上げます。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
今回は、ウイリアムマイナー研究所のビデオシリーズ15巻で紹介されている中標津町上標津の美馬農場にスポットを当てていきたいと思います。
美馬農場の酪農に対する取り組みは新しく、1994年に酪農をスタートさせました。それ以前は、牧草の生産、販売業務を営まれていたとお聞きしています。
飼養形態はフリーストールの形態で、酪農を始めてから毎年徐々に飼養頭数は増加する傾向にありましたが、特に昨年7月から今年にかけて経産牛の飼養頭数を、150頭から300頭への規模拡大を実現されております。
現在の農場の成績は、乳検成績で経産牛1頭当たりの乳量は、10020Kg、乳蛋白質3.18%乳脂肪率4.05%、体細胞9万であり、高い生産性と高品質の牛乳を生産されています。繁殖成績についても、分娩間隔は400日程度、初産分娩月齢25ヶ月分娩で、年間の事故率も非常に少ない牛群です。
現在は3回搾乳の形態をとり、家族5人と、パートタイマー6人の労働形態をとります。自給飼料は、コーンを30町歩、グラスを60町歩栽培し、購入粗飼料としてルーサンを購入されています。
飼料設計及び牛群管理については、トータル・ハード・マネージメント・サービスのスタッフ(獣医師)コンサルテーションを受けて、決め細やかな飼養管理が実践されているようです。
泌乳牛は、初産、経産牛、産褥群で群分けされ、TMRは1群TMRの形態を取ります。
飼料設計は、スパルタンや、CPMデーリーのプログラムを使用されており、グラスサイレージ、コーンサイレージ、ルーサンヘイの粗飼料と、濃厚飼料では主に単味配合を中心として、配合飼料、添加剤等を使用しています。
また、乾乳牛は、以前は2群管理を行っていましたが、現在では”高繊維、低エネルギーの1群管理“に挑戦(後で説明しますが)しているとのお話でした。
トータル・ハード・マネージメント・サービスのコンサルテーションを受けていたこともあり、国内外から様々な分野の研究者も農場を訪れる機会が多く、最新の酪農情報が集まっているようです。
したがって、現在の好成績の背景には、最新の酪農技術を抵抗なく取り入れ、自分の農場の中でさらに改良を加え、よいものを作り出す創意工夫が存在しているのではないかと思われます。
昨年作られた牛舎(現在は乾乳牛を飼養)からその1例を紹介します。
美馬農場は、フリーストールで連続水槽を取り入れた農場です。昨年、建設された新しい牛舎には連続水槽は使用していないですが、水の重要性を十分考慮し、幅広く、長い水槽を取り付け、水を飲んでいる牛の後ろを牛が移動可能な広さを備えています。
写真1 以前の連続水槽
写真2 新しい水槽
ネックレールは、従来フリーストールの農場で見られるネックレールと異なり、写真のような形態のネックレールを使用しています。このネックレールは高くすることで、同時に前のほうに移動しますのでより適切なネックレールの高さを提供できることとなります。今回は紹介していませんが、このネックレール方式をベッドのネックレールに応用した牛舎もあるようです。
写真3 新しいネックレール
写真4 飼槽通路
ベッドは砂のベッドを使用していますので、牛にとっては最良の選択であると思われます。サイドパーテーションについては,ワイドスパンを採用しておりその寸法についてはAndrew,Johnson氏の推奨値(ウイリアムナイナーUPデイト1999.185号に詳しく記載されています)に従って作られています。飛節など腫らした牛は見られず、良好なカウコンフォートが提供されているようです。
写真5 牛のベッド
写真6 ワイドスパンループ
現状のベッドでもかなり高度なカウコンフォートは達成されていますが、美馬農場ではさらに新しい取り組みを始めています。これは、育成牛のフリーストールでの試みですが、ベッドの前の障害物をまったくなくしたフリーストールを作られています。
写真7 前方に仕切がないベッド
写真8 前方に仕切のあるベッド
このようにすれば立ち上がるときのヘッドスペースの障害がまったくないので、よりスムースに立ち上がることが可能となります。ただし、美馬氏はこのようにした場合、従来の推奨とは異なった、サイドパーテーションの寸法が必要となるかもしれないと話されていました。
なお、美馬農場のフリーストールの詳細につきましては、ウィリアムマイナー研究所のビデオで詳しく説明されています。
現在では乾乳牛に関しては1群管理を行っており、高繊維、低エネルギーの給与メニューに取り組まれています。これは、今年美馬氏がアメリカに視察した際、非常に分娩後の事故が低い農場で取り組まれていた方法で、高繊維の粗飼料として、乾乳牛にバッカンを2Kg程度給与する方法で、バッカンの給与によって乾乳期の牛のルーメン容積を大きくすることや、第1胃の通過速度がおそくなることなどが期待され、乾乳後期でも非常に高い乾物摂取量が達成され、分娩後の事故(第四胃変位など)は減少するとのことです。
実際にアメリカから帰国されて、早速、乾乳牛の飼養管理をクロースアップでは、栄養濃度を高めた2群の乾乳管理から、1群のバッカンの給与体系に切り替えて、現在試験中との話でした。
はっきりとした結果が得られるのは、もう少し時間がかかるようですが、乾乳牛の変化として、非常に強い反芻が見られるようになっています。今後ある程度分娩する牛の数がまとまってくれば、何らかの結果が得られることと思います。
また、その他の工夫としては機械を用いて酸性水、アルカリ水に分離させ、酸性水の方はパーラーにて蹄洗浄のために用いているとのことです。
今回紹介したことは、美馬農場で行われていることの、一部にしかすぎないと思います。その他のことでも色々な工夫がなされていることでしょう。現状に満足せず常に高い目標を持ち、チャレンジする意欲と探求心が、現在の美馬農場の高品質で高い生産性を支えているのでしょう。さらに高いレベルを目指して、進化する農場として注目していきたいと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
前回は、上川群美瑛町の畑中ファームについて取り上げましたが、今回は苫小牧市美沢の五十嵐農場について、御紹介していきたいと思います。
五十嵐牧場の概要は、現在経産牛70頭でフリーストールの飼養形態をとっています。五十嵐牧場では6年前からフリーストール牛群へ移行し、徐々に乳量を伸ばしフリーストール導入後3年後には11000Kgを越え現在に至っております。
労働形態は、五十嵐氏夫妻、御子息の3人による家族労働と、不定期の研修生1名の労働形態をとっています。
現在の給与体系は、自給飼料としてグラスサイレージを15町歩、コーンサイレージを17町歩栽培し、その他の購入粗飼料はオーツヘイ、ルーサンヘイを購入されています。濃厚飼料は配合飼料(3種類)、ビートパルプ、リンゴ粕、圧ペンコーンの単味飼料と、ビタミン、ミネラル等の添加剤を使用した給与体系をとります。現在の主な牛群成績は、経産牛1頭当たりの乳量11400Kg、乳脂肪3.95%,乳蛋白3.3%,牛群構成の平均産次数は、2.6産となっております。
体細胞についてはやや高い傾向にありますが、分娩間隔は406日であり、繁殖成績は良好で高い生産性を維持しているフリーストール牛群です。
フリーストールへの移行に伴い飼料設計の依頼を受け、粗飼料の変更に応じて飼料設計を行っています。
例えば、最近行った飼料設計の変更では昨年収穫されたコーンサイレージが例年のコーンサイレージに比較して子実割合も少なく、粗飼料分析におけるデンプン価も低値であったので、この点を考慮し単味飼料の圧ペンコーンの使用を提案致し、現在の給与となっております。このようなコーンサイレージの傾向は、五十嵐牧場のみでなく、昨年収穫されたコーンサイレージの特徴のようです。
五十嵐氏の場合、飼料設計の利用法は、”現在、粗飼料の変動によって変更すべき点は何なのか、また粗飼料変更に伴い自分が給与している現状と飼料設計との間に大きな誤差がないかを知る1つの手段として、弊社の飼料設計を活用するようにしている”とのお話をされています。
搾乳牛舎
チューブ型サイレージバッグ
五十嵐牧場のフリーストールは1群管理ですが、給与体系はセミTMRの形態を取ります。ベースとなるTMRの濃度設定はおよそ40Kgの乳量設定ですが、それ以上の泌乳量の牛はパーラーで2Kgを上限として、配合飼料を給与しています。
五十嵐牧場のパーラーは、以前の繋ぎ牛舎を改良しパイプラインの一部を利用した形態となっておりますので、パーラー内給与の給与体系が可能になっております。
また、フリーストールにおいては、TMRとは別に、オーツヘイのフリーチョイスを行っています。五十嵐氏は、”牛には細かく切断されていない乾草の給与が必要で、産褥の牛などは好んで食べる。また、その選択にもTMRで使用していないような粗飼料を給与する”とのことで、現在オーツヘイを1頭当たり 1Kg程度給与しています。
現在の牛群は群管理ですから、産褥牛や(ただし分娩後3~4日は、別飼い)牛群のアシドーシスの発生の予防には、非常に効果的な方法であると思われます。
五十嵐牧場のもう一つの特徴は、土のパドックを備えたフリーストールであることです。五十嵐氏はフリーストールの飼養形態の中で土のパドックについて、
①蹄肢が健康なことが生産性を高めるには最も重要な要因の1つであり、土の上を歩かせることが出来るように土のパドックを選択し、そのことによって蹄の健康が保たれていることや(実際に削蹄は年1回でほとんど蹄の問題はないとのことです。)
②フリーストールのベッドの数に対して収容頭数が多くなるケースもありその場合でも牛がパドックにでて、休息することにより牛群の過密状況の軽減とストレスの緩和が実現できる
とお話しされています。現在、フリーストールの蹄病は、コンクリート病と表現されることもあり、飼料に関連した蹄病に加え、フリーストールの負重性の問題もクローズアップされ、北海道に於いても、床面に、ゴムマットを使用したフリーストールも作られるようになっています。
また、過密な状況に置かれた、フリーストールでもパドック等の使用で、その状況が改善される場合は、生産性における影響が軽減されることも知られています。
このように、土のパドックを備えるフリーストールの利点が機能し、現在の牛群の高い生産性につながっているのではないかと思われます。
ゆったりとした牛群
つなぎ牛舎を利用したパーラー
土のパドックのもう1つの利点として、繁殖に対する利点があります。牛の発情行動をモニターした試験で、土のパドックとコンクリートの上での泌乳牛の発情行動についての比較(ホーズデーリーマン“発情は足場が大切”2000.12月号)の中で、牛が発情行動を示す場合は、土の上を好み、発情の持続(発情行動を見せる時間)も土の上の方が長いことを指摘しています。高い生産性を維持しながら、分娩間隔も400日程の成績である要因の1つに土のパドックが貢献しているのではないかと思われます。
利点があれば欠点もあります。土のパドックの欠点は、乳房炎の発生が多くなる可能性があることです。泥濘なパドックが、細菌が増殖する場を与え、牛の体が汚れてしまうような管理状況になると、乳房炎の問題が発生してきます。
現在、五十嵐牧場はやや体細胞が高い傾向がありますが、土のパドックの欠点による乳房炎の発生も関与しているのかもしれません。五十嵐氏は、乳房炎の主な原因は、フリーストールのベッドメイキングや、搾乳の方法等に問題があるのではないかと話され、土のパドックは傾斜があり牛が汚れる可能性は少ないので、乳房炎の大きな要因ではないと考えておられます。
そこで、乳房炎の発生の軽減のため、牛床に嫌気性微生物を主体とした堆肥発酵促進剤を使用し、牛床で大腸菌群等の細菌が増えないような対策を行っているようです。
土のパドック
乾乳牛舎
乾乳期の牛は、1群管理で、特別な管理は行われていません。乾乳牛舎もフリーストールで、土のパドックを持ち、分娩間近の牛は分娩房へ移動し、分娩後は繋ぎ牛舎を改造した産褥房で3~4日間程度牛の状態を見て、状態が良いようであれば泌乳群へ移動するシステムをとっています。
この時期に乾乳期治療、ワクチン摂取等を行うくらいで、特別のことはやっていないと話されていました。実際に周産期疾病も多発しておらず、移行期の牛の状態も良好です。乾乳期における現状の給与システムは乾乳期は1群管理であり、給与メニューはグラスサイレージーとコーンサイレージを原物で半々、オーツヘイ0.5Kg程度、配合飼料は約1Kg程度となっています。その他添加剤等は一切使っていないとのことです。
現在、推奨されている乾乳後期の栄養濃度から考えると、クロースアップの栄養濃度としては、低いようです。しかしながら現在アメリカでは”繊維を多く給与し、エネルギーを押さえる”方法や乾乳1群管理など、新しい管理技術が提唱され始めているようです。これらの乾乳の手法についてはまた別の機会にご報告していきたいと思います。
五十嵐氏の話では、分娩後の乳熱等の代謝病が少ないのは、傾斜のあるパドックで、牛をしっかり歩かせ丈夫な筋肉を、乾乳期に作り上げることが乳熱等の予防に役立っているとのお話でした。
乾乳期から分娩後泌乳群にはいるまでの管理の特徴をまとめますと
①牛は一度も繋がれることなく、分娩を迎えること
②分娩房を備えていること
③分娩後3~4日間は集中的に産褥房で管理されていること
が牛群管理の上で、分娩時の事故を軽減している1つの要因ではないでしょうか。
育成牛についても各ステージごとで5群に群分けされた状態で管理され、泌乳牛、乾乳牛と同様に土のパドックを備えております。五十嵐氏は育成牛についても特に変わったことはやってはいないとのお話ですが、哺乳期間は、3~4ヶ月間と長いことがその特徴として上げられます。
五十嵐牧場では、泌乳牛舎、乾乳牛舎どちらも換気扇は取り付けられていませんが、夏場、暑さで乳量が低下する傾向はみられないようです。これについては、良質な断熱材を利用したことと、風向き等の自然の条件を考慮し、現在の牛舎の間取りや位置を決めたとお話されていました。このような点についてもきめ細かく気を配られているようです。
現在の高い生産性を達成するために努めていることについてお聞きしたところ、次のような興味深いお話をされました。
“特に難しいことを考えるのではなく、牛を理解して基本的なことを大切にしていくこと。それは、今の牛群をじっくり観察すれば、牛群の何が問題なのか、何処を改善すれば良いのか解るようになる。また、生産性を高めるには、労働の質、量も高める必要がある。自分より高い生産性 達成している農場は、労働の量、質も高いはずだ。だから、生産性の向上を求めるためにはもっと働かなければならないと思っている”
このような話からも、牛群の注意深い”観察”の積み重ねにより培った“技術”と現状よりさらに高い生産性を求める“気合い(やる気)”が現在の五十嵐牧場の原動力になっているのではないでしょうか。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
今回から、弊社の酪農家ユーザーの紹介を兼ね、技術のページを連載していこうと思います。最初は、旭川支店のユーザーで、美瑛町の畑中ファームについてご紹介したいと思います。
畑中ファームの概要は、現在、経産牛103頭であり、繋ぎ牛舎で50頭、フリーストールで53頭(うち乾乳牛13頭)の飼養形態をとっています。現在の主な牛群成績は、経産牛1頭当たりの乳量10800Kg、乳脂肪4.1%、乳蛋白3.26%、体細胞20万で、優秀な成績をおさめられています。分娩間隔はやや長い傾向にありますが、牛群構成の平均産次数は、3.3産と高く疾病等のトラブルも少ない「牛が健康で生産性の高い」牛群となっております。
畑中ファームでは、5年前にミキサーを導入し分離給与から、セミTMR給与へ変更されました。分離給与時の経産牛1頭当たりの乳量は9200Kg程度であり、セミTMRの給与開始とともに順調に乳量の向上が見られ、TMR開始後1年目には、経産牛1頭当たりの乳量は10000Kgを越えて現在に至っております。
セミTMR給与開始に伴い飼料設計の依頼を受け、以後粗飼料の変更、牛群の乳成分、乳量等の変化、牛群の変調等など必要に応じて、飼料設計を行っております。
畑中ファームにおける給与体系はコーンサイレージ、グラスサイレージ、ルーサンヘイの粗飼料に配合飼料及び、ビートパルプ、コーン、加熱大豆、綿実、大豆粕等の単味飼料を混合したセミTMRと配合飼料、コーン、加熱大豆をトップドレスする飼料体系をとっています。
セミTMRの栄養濃度はおよそ35Kgの乳量設定を満たすようにして設計され、トップドレスの上限は、配合飼料、コーン、加熱大豆の合計4Kgを上限とし、そのときの乳量設定が45Kgを満たすようになっております。
つなぎ牛舎
フリーストール牛舎
畑中ファームでのセミTMR導入による乳量成績の向上は、適切な切断長と濃厚飼料の混合により、第1胃内環境が安定化したこと、乾物摂取量が上昇したことなどTMR自体の利点もその一因とされますが、セミTMRの濃度設定やトップドレスのやり方、その他の給与体系の中での工夫が現状の成績を可能にしているように思われます。
セミTMRの濃度設計は、35Kgとなっており、やや高い濃度設計となっております。
畑中ファームのように、乳量の生産性が10000Kg以上の牛群では、セミTMRの栄養濃度を高く設定した方が、セミTMRの給与体系としては、より効果的であると思われます。セミTMRの給与体系ではトップドレスは制限給餌となるため、乳量設定以上に乳生産の高い牛は、セミTMRをより多く食い込むことで、栄養濃度を満たし、生産性を維持する事になります。したがって牛群成績の高い牛群に関しては、セミTMRの濃度設定と、TMRの乾物摂取量が重要になってきます。
また、トップドレスに関しても配合のみのトップドレスではなく、加熱大豆、コーンもトップドレスし泌乳牛の栄養濃度に対応する、きめ細かい給与体系も行っております。さらに、その他の給与体系の工夫として牛群の健康のため、TMR給与前に必ず乾草を給与(飼料設計に考慮されていない乾草の給与)し、ルーメンマットを作らせてから、TMR、濃厚飼料を給与することを行っております。このようにTMRとトップドレス以外に乾草を給与する事が、高泌乳群の健康を維持することと、低泌乳群におけるセミTMRの制限給与を可能とし、泌乳後半の過肥の防止に貢献しているものと思われます。
以上のような、セミTMRの導入と、それに伴った細部にわたる飼料給与マネージネントの実行が、毎年「健康で生産性の高い」牛群を達成する原動力になっているのではないでしょうか。
充分な麦稈が敷き詰められた牛舎
トンネル換気システム
給与形態以外の特徴として、牛の変調(便が軟便になること、飛節等の腫れ等)があった場合、現状の給与状況について聞き取りや、粗飼料の再分析等により、主な原因が栄養的な要因(蛋白質給与の過剰、繊維不足等)とされたとき、飼料設計の変更等で牛群の状態が好転に向かうケースがよく見られることです。
これは、前回のテーマに取り上げた
①栄養コンサルタントが考えた、「飼料設計による飼料」
②各飼料原料を「Mixした後の飼料」
③実際に「牛が摂取した飼料」
の3つの飼料の中で、③について農場主である畑中氏が正確に把握されている事が、問題点の解決のポイントとなっていると思われます。それは、牛群の観察、餌押し等の牛舎内の仕事にかなりの時間をかけ、牛の個体ごとの特徴を理解されているので、正確に牛群の飼料摂取状況が把握できるためでしょう。また疾病等の問題が発生したときには、畑中氏の牛群の診療をされている獣医師を交えて疾病の状況、原因として考えられることなど、様々な角度から検討できるような農場であることが、現状の成績に結びついているものと思われます。
深みのある牛
良質の牧草が給与されている育成牛
畑中ファームではトンネル換気システムを導入し、牛床には十分な量のバッカンが敷いてあり、カウコンフォートの状態が良好なことも、高い乾物摂取量が維持できる要因と思われます。
また初産分娩月齢は、24ヶ月~25ヶ月であり、良好な、フレームサイズで分娩を迎えているようです。畑中氏は、「乾物摂取量の高い牛作りは育成期の飼養管理が重要だ」との話をされています。哺乳、育成牛は、各ステージごとに、5群に群分けされ、非常に良好な環境で飼養されております。畑中氏の経験から、「自分の牛群では体高、体重よりも牛の深みと幅のある牛を作り上げることが大切であり、それは遺伝形質より育成期の飼養管理によるものが大きい」とのことです。
また、育成牛の栄養管理としては、「特に良質の1番乾草を多給し、2・3番の乾草の給与は行わないことで、十分に発達したルーメンと良好なフレームサイズが実現されているのでは」、と話されていました。
牛群の乳量成績の伸び、2~3年前からの暑熱の影響等で平均分娩間隔が、やや伸び気味になっています。今後、弊社も繁殖成績の向上のための手法等について、畑中氏や、担当獣医師とより綿密に連絡をとりながら、さらなる成績の向上のための支援組織として、サポートしていきたいと思います。
飼料設計や給与形態の検討など「目に見えて、数字として把握できること」と、このように行き届いた管理を実現するための「目には見えない畑中ファームのみなさまの日々の管理努力」が、牛群の高い乾物摂取量を確保し「健康で生産性の高い牛群」を可能にしているのではないでしょうか。
今回は、旭川支店のユーザーである畑中ファームの給与体系と特徴について紹介を兼ね、掲載しましたが、今後しばらくは、ユーザー紹介を兼ね「技術のページ」を連載していく予定です。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
昨年、11月11日~11月15日にかけて、北見モイワスポーツランドにて、ウイリアムマイナー集中トレーニング講座が開かれました。同研究所では、毎年海外から酪農の各分野で活躍されている栄養学者や、獣医師の先生を日本へ招きセミナーを開催しています。このセミナーには全国各地から、酪農家、獣医師、普及員、飼料会社等の酪農関係者が多数参加し、新しい知識の習得に努めています。
今回のセミナーは、Dr charles Sniffen, Dr Walt Guterbockによるセミナーで、Dr Walt Guterbockは獣医師として臨床、酪農家のコンサルテーション、大学での研究等の仕事を行った後、現在は酪農家の経歴の持ち主です。したがって農場をコンサルタントしている側と、されている側の両方を体験した経験から非常に有意義な講義を聴くことが出来ました。
今回は、セミナーの中でも、酪農家としてのDr Walt Guterbockなりの飼料給餌マネージメントの考え方とその取り組みについて、紹介してみたいと思います。
実際に牛が飼料を摂取するまで、3つの段階の、飼料が存在します。
①栄養コンサルタントが考えた、「飼料設計による飼料」
②各飼料原料を「Mixした後の飼料」
③実際に「牛が摂取した飼料」
の3つの段階が存在します。
最終的には、「牛が摂取した飼料」がどのようになっているのかをしっかり把握する事が、この3つの飼料の中で最も重要なことになります。Dr Walt Guterbockは飼料設計については、自分自身で時間をかけて行うよりも、飼料について詳しい知識を持ち、他の農場の飼料設計も行っているような、外部の栄養コンサルタントに依頼しているようです。飼料給与マネージメントでは、「牛が摂取した飼料」と「飼料設計による飼料」の誤差を少なくするための飼料給与マネージメントが行われているようです。
①単味飼料は、事前に混合しておく
②TMRの混合の順番はTMRの状態をみて決める。現在ではヘイレージ、乾草、穀類、コーンサイレージの順番になっている
③ミキサーを回し始めたら、けして仕事を中断しないようにする
④給与されたTMRについては定期的に数カ所で、サンプルを取り、ペンシルバニアの篩などを使ってその形状をチェックする
⑤ミキサーの秤が正常か定期的にチェックする
⑥残飼TMRについても定期的にそのCPをチェックする
⑦サイレージの品質は同じサイレージであっても少なくとも年3回は分析を行う
【利点】
①労力、燃料代の節約が可能になること
②飼槽に飼料が、1日中ある頻度が高くなる
【欠点】
①暑いときは、2次発酵をする
②給与量、摂取量が多いか少ないか判断することが難しい。もし、2回給与を行うのであれば、朝の給与後の食い込みの状態を見ながら夕方の給与量を調節出来るので無駄がない。1回給与で飼槽に常に飼料があるように給与した場合、多くの残飼がでてしまう。
③1回給与の場合、大量のTMRを作る場合が多くミキサーの容量を最大限使って、混合する事になり、満杯の状態で撹拌することになる。そのような、状態で撹拌した場合、混合の状態が不均一なものになってしまう。
④牛の採食行動に合わせた給与体系を考えると搾乳後の時間帯に給与する事が効果的であるが、実際にはその時間帯は農場の中でもっとも忙しい時間なので、給与することは難しい。
Dr Walt Guterbockは、コンサルタントの立場としてなら、多回給与の方がメリットが大きいと考えていますが、酪農経営のオーナーとしての判断は、1日1回給与を選択しています。
しかし前記した「飼料給与マネージメントとそのチェック項目」により、「飼料設計による飼料」、「Mixした後の飼料」、「牛が摂取した飼料」の3つの飼料の誤差を少なくする努力を行っているようです。今回の話題である飼料設計と、実際摂取された飼料の誤差を少なくするための飼料給与マネージメントは、重要な部分であると思います。しかしながら「飼料設計の飼料」が実際の農場の給与体系とかけ離れたり、適切でない場合、すぐれた飼料給与マネージメントが行われても機能しないでしょう。
したがって「飼料設計の飼料」は酪農家と十分議論した上で、栄養のルール等を考慮しながら設定する事が大切になるでしょう。
今回は、ウイリアムマイナー集中トレーニング講座で、農場をコンサルタントしている側と、されている側の両方を体験したDr Walt Guterbockによる講義の一部をご紹介しました。
次回からは弊社の酪農家ユーザー紹介を兼ね、酪農家で実践されている事例を紹介しながら「技術のページ」を連載していきたいと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
先日、臨床と研究の2つのフィールドの間で精力的に活動されている先生(獣医師)を講師として、代謝プロファイルテストと、周産期疾病についての社内研修会を行いました。
仕事がらどうしても、牛群へのアプローチは、給与状況、粗飼料分析、飼料設計等から現状の栄養状態を確認したうえで、乳検データー等を見ながら牛群の問題点について、アプローチする方法を取りがちです。しかしながら牛の血液性状を知ることも、現状の健康状態を把握する方法として非常に大切なモニタリングの手法と思われます。実際に北海道NOSAI等でもプロファイルテストが行われ、多くの酪農家で牛群のモニタリングの指標として、活用されております。
今回は、このプロファイルテストの基礎的な知識の習得に努め、より幅広く正確に牛群の栄養、健康状態を知る手段として活用することを目的としました。
プロファイルテストの目的は、血液検査による健康評価であり、牛群における潜在的異常病態の有無、程度、ステージの客観的評価法とされます。代謝プロファイルテストは、アメリカで始まり、日本には昭和61年頃に入ってきたそうです。現在アメリカでは以前ほど盛んに行われてはいないようで、その理由として
1)経費がかかる
2)労力がかかる
3)牛群における全頭の健康評価ではない
4)牛群が大きく、回数、頭数が少ないほど正確度が低下する
などが上げられるとの事です。
したがって、経済性とその信頼性を考慮し、周産期疾病との関連性に焦点を当てた場合には、乾乳期と、泌乳前期牛にプロファイルテストを行うことが適当でないかとの話をされておりました。
プロファイルテストの検査項目は大きく4つの分野に分類されます。
1)エネルギー代謝・・・・血糖、遊離脂肪酸(NEFA)
2)蛋白代謝・・・・・・・・・ヘマトクリット、尿素窒素(BUN)
3)無機物代謝・・・・・・・カルシウム、無機リン、マグネシウム
4)肝機能・・・・・・・・・・・総コレステロール、γGTP、GOT(細胞内酵素)
また、各正常値は、泌乳ステージによって変動しています。
①血糖 正常範囲 60-69mg/dl
(低値)ケトーシス、第四胃変位、低蛋白質率、卵巣静止、乾物摂取量不足
(高値)消化障害、蹄病、濃厚飼料多給
血糖は、牛は人の値の半分の値が正常値であり、正常値よりも少しでも下がると大きなダメージにつながる。また、血糖はストレスによって高値になります。例えば、蹄病等のストレスでエサ食いが悪く、痩せている牛などは血糖は高値を示す。
②遊離脂肪酸(NEFA)正常範囲 200μEq/l以下
(高値)ケトーシス、脂肪肝、第四胃変位、低蛋白質率、乳量低下、卵巣静止、乾物不足
遊離脂肪酸が高いと牛は飢餓状態(体内の脂肪を動員してエネルギーを得ている状態)
①ヘマトクリット 正常範囲 28~34%
(低値)低乳量、長期間の低蛋白質な飼料
(高値)消化障害、蹄病、濃厚飼料多給、飲水不足
高値の場合、濃厚飼料多給、蹄病、飲水不足の3つがリンクしている場合が多い。また和牛に関しては、血液性状がホルスタインに比較して濃く、ホルスタインよりも正常値は高い。
②尿素窒素(BUN)正常範囲11~20mg/dl
(低値)卵巣静止、低蛋白質飼料、高エネルギー飼料
(高値)肝機能障害、卵胞嚢腫、溶解性蛋白質過剰、低エネルギー飼料
BUNが10以下の牛は食い止まり等が起きている可能性がある。
①カルシウム 正常範囲 9~10mg/dl
(低値)乳熱 絶対的なカルシウム不足
(高値)乳熱 乾乳後期のマメ科放牧草の給与
乳熱の予防法として、クロースアップ期にカルシウム給与を制限する方法が一般的に取られていますが、うまくいかない場合もあります。そのような場合、乾乳前 期の血中カルシウム濃度を測定し、その値によって次のような対応をすることが、乳熱の予防法として有効であると解説されました。
<カルシウムが低値の場合(8.8mg/dl以下)>
泌乳後期から乾乳前期にかけての、カルシウムの蓄積が行われていない。したがって乾乳後期にカルシウムを制限給与した場合、乳熱を発症する可能性が高い
<カルシウムが、正常範囲の場合(9mg/dl~10mg/dl)>
乾乳後期にカルシウムを制限することで分娩後の乳熱の発症を軽減する事が出来る。
②リン 正常範囲 4.5~5.5mg/dl
(高値)乳熱、リンについてはカルシウムと同じように動く。
過剰なリンは、肝臓で排出されるが、そのときカルシウムもリンクして排出されている。
③マグネシュウム 正常範囲 2.0~2.5mg/dl
(低値)乳熱、低マグネシウム血症
マグネシウムが1.8~1.9mg/dlと低値なときは、飼料の品質の低下により乾物摂取量が大きく制限されていることが予想され牛のダメージも大きい。
①総コレステロール 正常範囲 90~250mg/dl
(低値)乳熱、ケトーシス、乾乳後期の食い止まり
(高値)肝機能障害、排卵障害
②γGTP 正常範囲 15~25IU/l
(高値)肝機能障害、脂肪肝、飼料カビ(マイコトキシン)
飼料カビ(マイコトキシン)により、γGTPが高くなるケースが意外に多く見られる。
③GOT 正常範囲 50~80IU/l
(低値)乳熱、ケトーシス、乾乳後期の食い止まり
(高値)肝機能機能障害、脂肪肝、運動器病
特に乾乳後期にGOTが50以下の低値の場合、肝臓が働いていない(眠っている)状態なので、活性化する必要がある。ただし肝機能が反応するのに2週間程度かかる。
*マイコトキシン等による下痢の特徴
γGTPが高値を示しているようなカビによる下痢の特徴は、内容物が腸管内でほとんど消化されない状態で、糞として排出されることであり、未消化のコーン等の断 片や、粗い繊維などが認められる。また、糞の色は濃いかまたは薄いかのどちらか極端で、においは腐敗臭が強いとの特徴を持つとのことです。また、肛門周囲部に アレルギー反応による蕁麻疹が見られることもあり、重度の場合皮膚に蕁麻疹が現れるとのことです。
血糖値、BUN、GOT等が低値なとき、乾乳後期において、アミノ酸バランスを考えた蛋白質給与が非常に効果的と話されていました。この様な給与体系を実現する事によって、低値であった血糖値、BUNが上昇し、その後GOTも、徐々に上昇してくる傾向にあるそうです。
現在、これまで、MUN(個体ごとのMUN)と、乳検成績等について調査した結果、生産性や、牛群の健康等を考慮した場合どれぐらいの値が適切か?との見解を示されました。先生の意見としては、8.5~12程度が適切なMUNの範囲ではないかと話されておりました。
特に初産牛で分娩後の乳房浮腫が見られることがあります。分娩後の乳房浮腫の軽減のプログラムとして、分娩後3日間、抗生物質とステロイドの筋肉内注射のプログラムを実施すると効果的とのお話でした。一般的に、ステロイドは、免疫性を抑制する作用があり、分娩等のストレスで、免疫性が低下している時期にステロイドを投与する事に対しして疑問視する声もあるようですが、実際の臨床試験等では、問題がないようだとのことです。
初産の牛で抗生物質など全く投与されていないのにも関わらず、抗生物質反応が出るから牛乳が出荷出来ないなどのお話を聞きますが、これは、分娩前後、自分を守らなければならない状態におかれたとき、ラクトフェリンなどの生体防御物質が、多く作り出されていることがその原因と考えられるそうです。
人は真夏のような暑い季節には、冷たい水を好んで飲みますが、牛は、真夏でも冷水より、生ぬるい水を好むそうです。また冬場雪の日や、厳しい寒さでTMRの中に細かい氷などが入り込んだりするとそれによって下痢を起こしたりすることが良くあるそうです。
今回はこれまでの、話題からやや視点を変え、より獣医学的な立場から話題提供を致しました。実際プロファイルテストを実施されている酪農家の方も多いかと思われます。プロファイルテストでは、給与状況等を知ることなく牛の栄養状態を直ちに判断することが出来る優れた手法だと思います。その結果どの様な対応をすべきか(例えばエネルギー不足、蛋白質不足など)の重要な判断材料となります。
また、正確な給与状況の把握も、また大切な判断材料となります。問題点の改善にはこのような有効な情報をより正確に判断する知識が必要となります。
今後、酪農家を取り巻く支援組織のより幅広い情報提供と協力関係を構築することが、重要になるでしょう。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
9月6日~7日に札幌にて、北海道獣医師会が開催されました。産業動物学会では、基礎研究から臨床に至るまで多くの興味深い研究報告がなされましたが、栄養と疾病や繁殖との関連性についての報告も数例報告がありました。
今後生産性の向上のため、さらに高度な獣医学医療の研究もなされることと思いますが、獣医学と栄養学が結びついた分野の研究も活発になることでしょう。
毎年北海道獣医師会終了後、ファルマシア・アップジョン社が事務局になり、プロダクションメディスン研究フォーラムが開かれます。
今回は蹄病をテーマに取り上げ、イリノイ州立大学のWallace先生、NOSAI山形の阿部先生、釧路地区NOSAIの石井先生から、話題提供があり会場では活発な論議が行われました。
先生方のテーマは以下のような演題でした。
1)「乳牛の蹄病と対策、特に栄養と環境の関連性について」Wallace先生
2)「牛群の収益性向上のために 蹄病予防からのアプローチ」阿部先生
3)「乳牛はなぜ蹄病になるのか 角質形成不全について」石井先生
特に今回の研究フォーラムでは、Wallace先生の演題が2時間ほどあり、栄養、および環境と蹄病との関連性について、細部にわたり講演が行われました。そこでその内容について、自分なりに要点をまとめてみたいと思います。
蹄底潰瘍を発症した牛
カウコンフォートの良好な牛群
1)100頭牛群の跛行コストは9,000ドルであり、空胎日数が平均29日延びる。
2)牛群のサイズが100頭以上の群のほうが100頭以下の群より、蹄病の発生が多いこと
3)蹄葉炎の発生には、栄養と環境の双方の要因が関連しあって発生する
4)環境的要因として蹄への過剰な負担
① コンクリートの上での長時間の起立(コンクリート病)
② 快適性の欠如(カウコンフォートが悪い、ベッドの敷料が少ないなど)
③ 蹄が糞まみれな状態(衛生状態)
④ 過密なフリーストール(過密)
⑤ 初産牛が追いまわされる(群構成)
5)栄養の不均衡によるもの
① 炭水化物の栄養成分のアンバランス(高デンプン、低繊維飼料)
② 飼料の物理的形状(有効繊維)の問題(正常な反芻には有効な繊維長が必要)
③ その他の栄養的な要因 ビオチン、銅および亜鉛欠乏など
ビオチン,亜鉛メチオニンの効果については,蹄の健康を改善する効果の
報告はあるが、産乳反応については、追加試験が必要。また、これらの効
果を知るためには数ヶ月の給与期間が必要
④ 移行期における第一胃の適応(微生物の安定に10~14日、絨毛の発達には
6~8週間かかる)
6)蹄葉炎のモニター法として
① 飼料炭水化物のバランス
② 有効繊維の測定
③ 第一胃pHのモニター
④ 乳検記録の分析(乳脂肪率、乳タンパク質率と乳脂肪率の逆転、牛の淘汰率)
⑤ 牛の快適性(カウコンフォート)の評価
⑥ 牛群の削蹄記録
また、阿部先生はNOSAI山形での蹄病予防を損害防止事業として、地域の獣医師、削蹄師らが提携して、蹄病の予防に取り組くむ「運動器病予防対策事業の手法と成果」について報告され、釧路NOSAIの石井先生は、角質形成不全の原因について、牛の蹄の解剖学的、機能的特徴を踏まえ、機械的要因を中心に角質形成不全について、解説されました。
道内各地の酪農家のお宅を訪問した際、「蹄葉炎で足を痛がっているようだ」との相談を受けることがあります。実際に飼料給与状況の診断を行ってみると、高デンプン、低繊維の給与での発生や、移行期の急激な飼料の変化等が、原因とされる蹄葉炎の発生もありますが、飼料設計上は大きな問題点がないのにもかかわらず、蹄葉炎の発生があることも事実です。
また、蹄葉炎の発生が特にフリーストールでしかも後足に多く発生が見られることから、今回、先生方のお話にもあった様に牛の肢蹄の機能的な問題、栄養、環境など様々な要因が複雑に絡み合って蹄病が発生していることが理解できます。
現在、丹波屋で飼料設計をさせていただいている酪農家の方は、これまで飼料給与の状況から、栄養の不均衡についてはいろいろとアドバイスさせていただいております。また、TMRを給与されている場合、TMRの物理的形状(有効繊維)をパーティクルセパレーターを用いて調査する事も行っております。
TMR等の物理的形状を知るための篩を用いて、そのTMRの物理的形状が適切かどうかを知るためのもので、牛が健康を保ことや適切な乾物摂取量を実現するための指標として有効であると思われます。またサイレージの切り込みの祭、パーティクルセパレーターを用いることにより、牛の健康を保つのに十分な切断長でサイレージとして詰め込むに適切な切断長を知ることが出来ます。
TMRを篩にかけた場合、上段の篩に6-10%以上、中段に30-50%以上、下段に40-60%以上が分布するのが適切であるとされています。
蹄病の発生の原因として、低繊維、高デンプンによるアシドーシスがクローズアップされがちですが、蹄病の発生にはカウコンフォートの欠如、不衛生な蹄管理、牛の肢の機能的な問題等多くの要因が関係しています。実際の蹄病の問題解決には、何が蹄病の発生原因なのかを多くの要因から、検討していくことが大切だと思われます。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)
7月19日~21日にかけて、愛知県で大動物を対象として開業(獣医師6名、テクニシャン1名、事務2名)されている、あかばね動物クリニックの鈴木先生にコーディネイターをお願いし、愛知県の酪農家における暑熱対策の取り組みについて視察してきました。
視察時の最高気温は34度まで上がり湿度も高く、暑熱対策の実際を研修するには格好の気象条件となりました。
今回視察した酪農家は50頭から200頭の牛群で、乳量も高く(10,000Kg以上の牛群)、疾病の発生も少ない酪農家がほとんどでした。
最初に見学したフリーバーン農場に到着したのは、午後2時で外はかなり暑くなっていました。しかしながら牛舎内では座って反芻している牛も数多く見られ、この様な厳しい環境のなかでも、牛群は落ち着いている様子でした。
フリーバーンに設置された換気扇
フリーバーンは、60頭1群の牛群サイズに対して、3カ所に水槽(1頭当たりの水槽のスペースが20cmになるように設計)が設置してあり、新鮮な水が十分飲める様になっていました。
さらに水槽の隣には重曹及び食塩が自由採食出来るよう設置してありました。暑さが厳しくなるにつれ、重曹よりも食塩の消費量が増えているとのお話でした。
新鮮な水が十分飲めるような水槽の設置状況や、重曹、食塩のフリーチョイスのシステムは、今回視察したどの農場でも採用されており、暑熱対策の第一歩は新鮮な水が十分飲める環境作りから始めることが大切だと改めて認識しました。
1頭当たりのスペースが長い水槽
フリーストール、フリーバーンにおける換気扇の設置に関しては、まずその換気扇の数に圧倒されました。写真はフリーストールでの一例ですが、数や換気扇の設置の間隔、角度もさることながら、換気扇の設置方法で考慮しなければならない点について考えさせられました。換気扇の設置の高さ(特にベッドの上に設置してある換気扇の高さ)と送風システムです。
フリーストールに設置された換気扇
換気扇の設置の高さはベッドに座っている牛に風が当たるよう、牛床から180cm程度の高さで設置する事が重要とのお話でした。また飼槽通路に設置する場合は、牛の乗駕や、トラクターの作業の邪魔にならないような高さで、なるべく低く設置する事がポイントです。またフリーストールで見られるリレー換気システムは、送り出す側に障害物(例えば壁、倉庫など)ある場合、風の流れがブロックされてしまい、十分な換気効果が得られないとのことでした。換気扇の設置を考えるとき、換気扇の数、間隔、角度などに気を取られがちですがこのような点に目を向けることも、フリーストールのリレー換気システムでは重要と思われます。
フリーストールに設置された換気扇
ミストシステムと換気扇を組み合わせた暑熱対策について、フリーストールとフリーバーンの農場についてそれぞれ視察する事が出来ました。ミストシステムを視察したのは今回初めてであり、ミストシステムが作動し水を噴射したときには牛舎内が確実に涼しくなることを体感しました。ミストシステムを採用する場合に大切なことは、換気扇とセットであることです。ただ水を噴霧して濡らすのではなく、濡らした後に送風し、乾燥させることが大切です。
ミストシステムとセットになった換気扇
どちらの農場もミストの噴射後、牛床が濡れることも無く、牛舎の仕切り柵位の高さでミストが気化する程度の噴射量に設定されているようでした。ミストに因って、気温は下がりますが、湿度は上昇してしまいます。従って、ミストを噴射するかどうかは、日々の温度と湿度の兼ね合いにより決定しているとのお話でした。フリーストール牛舎のミストシステムの方は、換気扇の周囲に4カ所噴射口が取り付けられています。この様に換気扇と対になっているミストシステムの方が、それぞれ独立している方式よりも効果的に冷却効果を発揮すると思われます。
フリーバーンにおける換気扇とミスト噴射
北海道の場合と異なり、粗飼料はほとんどが購入粗飼料の形態を取っていました。従ってサイレージの発酵品質や栄養成分、または水分の変化などTMRを給与するのに考慮しなければいけない要因が少ないことがその特徴です。また吟味された粗飼料の使用により、高品質の粗飼料が給与可能となります。粗飼料が購入飼料であるため、TMRは低水分となってしまうので十分に加水し、水分調整をして給与されます。サイレージを給与しないので給与後の2次発酵の心配をする事なく(もし副産物を使っている場合は、2次発酵する事もあるようです)、TMRを給与できます。しかしながら、どうしても夏場の暑熱ストレスによって乾物摂取量は低下するようです。TMRの摂取量が低下してきた場合、TMRの変更の手法は、粗飼料とデンプンを同じ様な割合で減らすが、ビートパルプ、ビール粕などの中間飼料の増給や、ミネラル、ビタミンの給与量は変更しないようにして調節する事が、夏場の暑熱対策を考えたTMRの調節法とのことです。
今回の視察では、そのほかつなぎ牛舎のトンネル暑熱対策(25個の換気扇が設置されたつなぎ牛舎)、屋根の散水システム、帰り通路でのシャワーシステムなど、多くの興味深いシステムを視察しましたが、またの機会にお知らせします。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)