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代謝プロファイルテストと、周産期疾病について | 2001年11月 |
飼料会社は飼料設計から、獣医は血液から? |
先日、臨床と研究の2つのフィールドの間で精力的に活動されている先生(獣医師)を講師として、代謝プロファイルテストと、周産期疾病についての社内研修会を行いました。 仕事がらどうしても、牛群へのアプローチは、給与状況、粗飼料分析、飼料設計等から現状の栄養状態を確認したうえで、乳検データー等を見ながら牛群の問題点について、アプローチする方法を取りがちです。しかしながら牛の血液性状を知ることも、現状の健康状態を把握する方法として非常に大切なモニタリングの手法と思われます。実際に北海道NOSAI等でもプロファイルテストが行われ、多くの酪農家で牛群のモニタリングの指標として、活用されております。 今回は、このプロファイルテストの基礎的な知識の習得に努め、より幅広く正確に牛群の栄養、健康状態を知る手段として活用することを目的としました。 |
代謝プロファイルテストについて |
プロファイルテストの目的は、血液検査による健康評価であり、牛群における潜在的異常病態の有無、程度、ステージの客観的評価法とされます。代謝プロファイルテストは、アメリカで始まり、日本には昭和61年頃に入ってきたそうです。現在アメリカでは以前ほど盛んに行われてはいないようで、その理由として 1)経費がかかる 2)労力がかかる 3)牛群における全頭の健康評価ではない 4)牛群が大きく、回数、頭数が少ないほど正確度が低下する などが上げられるとの事です。 したがって、経済性とその信頼性を考慮し、周産期疾病との関連性に焦点を当てた場合には、乾乳期と、泌乳前期牛にプロファイルテストを行うことが適当でないかとの話をされておりました。 |
プロファイルテスト検査項目 |
プロファイルテストの検査項目は大きく4つの分野に分類されます。 1)エネルギー代謝・・・・血糖、遊離脂肪酸(NEFA) 2)蛋白代謝・・・・・・・・・ヘマトクリット、尿素窒素(BUN) 3)無機物代謝・・・・・・・カルシウム、無機リン、マグネシウム 4)肝機能・・・・・・・・・・・総コレステロール、γGTP、GOT(細胞内酵素) また、各正常値は、泌乳ステージによって変動しています。 |
エネルギー代謝・・・血糖、遊離脂肪酸(NEFA) |
@血糖 正常範囲 60-69mg/dl (低値) ケトーシス、第四胃変位、低蛋白質率、卵巣静止、乾物摂取量不足 (高値) 消化障害、蹄病、濃厚飼料多給 血糖は、牛は人の値の半分の値が正常値であり、正常値よりも少しでも下がると大きなダメージにつながる。また、血糖はストレスによって高値になります。例えば、蹄病等のストレスでエサ食いが悪く、痩せている牛などは血糖は高値を示す。 A遊離脂肪酸(NEFA) 正常範囲 200μEq/l以下 (高値) ケトーシス、脂肪肝、第四胃変位、低蛋白質率、乳量低下、卵巣静止、乾物不足 遊離脂肪酸が高いと牛は飢餓状態(体内の脂肪を動員してエネルギーを得ている状態) |
蛋白代謝・・・ヘマトクリット、尿素窒素(BUN) |
@ヘマトクリット 正常範囲 28〜34% (低値) 低乳量、長期間の低蛋白質な飼料 (高値) 消化障害、蹄病、濃厚飼料多給、飲水不足 高値の場合、濃厚飼料多給、蹄病、飲水不足の3つがリンクしている場合が多い。また和牛に関しては、血液性状がホルスタインに比較して濃く、ホルスタインよりも正常値は高い。 A尿素窒素(BUN)正常範囲11〜20mg/dl (低値) 卵巣静止、低蛋白質飼料、高エネルギー飼料 (高値) 肝機能障害、卵胞嚢腫、溶解性蛋白質過剰、低エネルギー飼料 BUNが10以下の牛は食い止まり等が起きている可能性がある。 |
無機物代謝・・・カルシウム、無機リン、マグネシウム |
@カルシウム 正常範囲 9〜10mg/dl (低値) 乳熱 絶対的なカルシウム不足 (高値) 乳熱 乾乳後期のマメ科放牧草の給与 乳熱の予防法として、クロースアップ期にカルシウム給与を制限する方法が一般 的に取られていますが、うまくいかない場合もあります。そのような場合、乾乳前 期の血中カルシウム濃度を測定し、その値によって次のような対応をすることが、乳熱の予防法として有効であると解説されました。 <カルシウムが低値の場合(8.8mg/dl以下)> 泌乳後期から乾乳前期にかけての、カルシウムの蓄積が行われていない。したがって乾乳後期にカルシウムを制限給与した場合、乳熱を発症する可能性が高い <カルシウムが、正常範囲の場合(9mg/dl〜10mg/dl)> 乾乳後期にカルシウムを制限することで分娩後の乳熱の発症を軽減する事が出来る。 Aリン 正常範囲 4.5〜5.5mg/dl (高値) 乳熱、リンについてはカルシウムと同じように動く。 過剰なリンは、肝臓で排出されるが、そのときカルシウムもリンクして排出されている。 Bマグネシュウム 正常範囲 2.0〜2.5mg/dl (低値) 乳熱、低マグネシウム血症 マグネシウムが1.8〜1.9mg/dlと低値なときは、飼料の品質の低下により乾物摂取量が大きく制限されていることが予想され牛のダメージも大きい。 |
肝機能・・・総コレステロール、γGTP、GOT(細胞内酵素) |
@総コレステロール 正常範囲 90〜250mg/dl (低値) 乳熱、ケトーシス、乾乳後期の食い止まり (高値) 肝機能障害、排卵障害 AγGTP 正常範囲 15〜25IU/l (高値) 肝機能障害、脂肪肝、飼料カビ(マイコトキシン) 飼料カビ(マイコトキシン)により、γGTPが高くなるケースが意外に多く見られる。 BGOT 正常範囲 50〜80IU/l (低値) 乳熱、ケトーシス、乾乳後期の食い止まり (高値) 肝機能機能障害、脂肪肝、運動器病 特に乾乳後期にGOTが50以下の低値の場合、肝臓が働いていない(眠っている)状態なので、活性化する必要がある。ただし肝機能が反応するのに2週間程度かかる。 *マイコトキシン等による下痢の特徴 γGTP が高値を示しているようなカビによる下痢の特徴は、内容物が腸管内でほとんど消化されない状態で、糞として排出されることであり、未消化のコーン等の断 片や、粗い繊維などが認められる。また、糞の色は濃いかまたは薄いかのどちらか極端で、においは腐敗臭が強いとの特徴を持つとのことです。また、肛門周囲部に アレルギー反応による蕁麻疹が見られることもあり、重度の場合皮膚に蕁麻疹が現れるとのことです。 |
乾乳期後期に焦点を当てプロファイルテストを行うときの重要チェック項目 |
血糖値、BUN,GOT,Caの4項目 |
血糖値、BUN、GOT等が低値なとき、乾乳後期において、アミノ酸バランスを考えた蛋白質給与が非常に効果的と話されていました。この様な給与体系を実現する事によって、低値であった血糖値、BUNが上昇し、その後GOTも、徐々に上昇してくる傾向にあるそうです。 |
プロファイル以外のトピックスとして |
適切なMUNの値とは? |
現在、これまで、MUN(個体ごとのMUN)と、乳検成績等について調査した結果、生産性や、牛群の健康等を考慮した場合どれぐらいの値が適切か?との見解を示されました。先生の意見としては、8.5〜12程度が適切なMUNの範囲ではないかと話されておりました。 |
分娩後の乳房浮腫に対する対策 |
特に初産牛で分娩後の乳房浮腫が見られることがあります。分娩後の乳房浮腫の軽減のプログラムとして、分娩後3日間、抗生物質とステロイドの筋肉内注射のプログラムを実施すると効果的とのお話でした。一般的に、ステロイドは、免疫性を抑制する作用があり、分娩等のストレスで、免疫性が低下している時期にステロイドを投与する事に対しして疑問視する声もあるようですが、実際の臨床試験等では、問題がないようだとのことです。 |
抗生物質を投与されていない牛での、乳汁中の抗生物質反応について |
初産の牛で抗生物質など全く投与されていないのにも関わらず、抗生物質反応が出るから牛乳が出荷出来ないなどのお話を聞きますが、これは、分娩前後、自分を守らなければならない状態におかれたとき、ラクトフェリンなどの生体防御物質が、多く作り出されていることがその原因と考えられるそうです。 |
牛は意外にデリケートな動物 |
人は真夏のような暑い季節には、冷たい水を好んで飲みますが、牛は、真夏でも冷水より、生ぬるい水を好むそうです。また冬場雪の日や、厳しい寒さでTMRの中に細かい氷などが入り込んだりするとそれによって下痢を起こしたりすることが良くあるそうです。 |
まとめ |
今回はこれまでの、話題からやや視点を変え、より獣医学的な立場から話題提供を致しました。実際プロファイルテストを実施されている酪農家の方も多いかと思われます。プロファイルテストでは、給与状況等を知ることなく牛の栄養状態を直ちに判断することが出来る優れた手法だと思います。その結果どの様な対応をすべきか(例えばエネルギー不足、蛋白質不足など)の重要な判断材料となります。 また、正確な給与状況の把握も、また大切な判断材料となります。問題点の改善にはこのような有効な情報をより正確に判断する知識が必要となります。 今後、酪農家を取り巻く支援組織のより幅広い情報提供と協力関係を構築することが、重要になるでしょう。 技術部 技術課 内田勇二(獣医師) |