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乳牛の蹄病とその対策 | 2001年09月 |
第52回北海道獣医師会が開かれる |
9月6日〜7日に札幌にて、北海道獣医師会が開催されました。産業動物学会では、基礎研究から臨床に至るまで多くの興味深い研究報告がなされましたが、栄養と疾病や繁殖との関連性についての報告も数例報告がありました。 今後生産性の向上のため、さらに高度な獣医学医療の研究もなされることと思いますが、獣医学と栄養学が結びついた分野の研究も活発になることでしょう。 |
2001プロダクションメディスン研究フォーラム「乳牛の蹄病とその対策」 |
毎年北海道獣医師会終了後、ファルマシア・アップジョン社が事務局になり、プロダクションメディスン研究フォーラムが開かれます。 今回は蹄病をテーマに取り上げ、イリノイ州立大学のWallace先生、NOSAI山形の阿部先生、釧路地区NOSAIの石井先生から、話題提供があり会場では活発な論議が行われました。 先生方のテーマは以下のような演題でした。 1)「乳牛の蹄病と対策、特に栄養と環境の関連性について」 Wallace先生 2)「牛群の収益性向上のために 蹄病予防からのアプローチ」 阿部先生 3)「乳牛はなぜ蹄病になるのか 角質形成不全について」 石井先生 特に今回の研究フォーラムでは、Wallace先生の演題が2時間ほどあり、栄養、および環境と蹄病との関連性について、細部にわたり講演が行われました。そこでその内容について、自分なりに要点をまとめてみたいと思います。 |
![]() 蹄底潰瘍を発症した牛 | ![]() カウコンフォートの良好な牛群 |
乳牛の蹄病と対策、特に栄養と環境の関連性について |
1)100頭牛群の跛行コストは9,000ドルであり、空胎日数が平均29日延びる。 2)牛群のサイズが100頭以上の群のほうが100頭以下の群より、蹄病の発生が多いこと 3)蹄葉炎の発生には、栄養と環境の双方の要因が関連しあって発生する 4)環境的要因として蹄への過剰な負担 @ コンクリートの上での長時間の起立(コンクリート病) A 快適性の欠如(カウコンフォートが悪い、ベッドの敷料が少ないなど) B 蹄が糞まみれな状態(衛生状態) C 過密なフリーストール(過密) D 初産牛が追いまわされる(群構成) 5)栄養の不均衡によるもの @ 炭水化物の栄養成分のアンバランス(高デンプン、低繊維飼料) A 飼料の物理的形状(有効繊維)の問題(正常な反芻には有効な繊維長が必要) B その他の栄養的な要因 ビオチン、銅および亜鉛欠乏など ビオチン,亜鉛メチオニンの効果については,蹄の健康を改善する効果の 報告はあるが、産乳反応については、追加試験が必要。また、これらの効 果を知るためには数ヶ月の給与期間が必要 C 移行期における第一胃の適応(微生物の安定に10〜14日、絨毛の発達には 6〜8週間かかる) 6)蹄葉炎のモニター法として @ 飼料炭水化物のバランス A 有効繊維の測定 B 第一胃pHのモニター C 乳検記録の分析(乳脂肪率、乳タンパク質率と乳脂肪率の逆転、牛の淘汰率) D 牛の快適性(カウコンフォート)の評価 E 牛群の削蹄記録 また、阿部先生はNOSAI山形での蹄病予防を損害防止事業として、地域の獣医師、削蹄師らが提携して、蹄病の予防に取り組くむ「運動器病予防対策事業の手法と成果」について報告され、釧路NOSAIの石井先生は、角質形成不全の原因について、牛の蹄の解剖学的、機能的特徴を踏まえ、機械的要因を中心に角質形成不全について、解説されました。 |
これまでのまとめと現在の取り組み |
道内各地の酪農家のお宅を訪問した際、「蹄葉炎で足を痛がっているようだ」との相談を受けることがあります。実際に飼料給与状況の診断を行ってみると、高デンプン、低繊維の給与での発生や、移行期の急激な飼料の変化等が、原因とされる蹄葉炎の発生もありますが、飼料設計上は大きな問題点がないのにもかかわらず、蹄葉炎の発生があることも事実です。 また、蹄葉炎の発生が特にフリーストールでしかも後足に多く発生が見られることから、今回、先生方のお話にもあった様に牛の肢蹄の機能的な問題、栄養、環境など様々な要因が複雑に絡み合って蹄病が発生していることが理解できます。 現在、丹波屋で飼料設計をさせていただいている酪農家の方は、これまで飼料給与の状況から、栄養の不均衡についてはいろいろとアドバイスさせていただいております。また、TMRを給与されている場合、TMRの物理的形状(有効繊維)をパーティクルセパレーターを用いて調査する事も行っております。 |
パーティクルセパレーター |
TMR等の物理的形状を知るための篩を用いて、そのTMRの物理的形状が適切かどうかを知るためのもので、牛が健康を保ことや適切な乾物摂取量を実現するための指標として有効であると思われます。またサイレージの切り込みの祭、パーティクルセパレーターを用いることにより、牛の健康を保つのに十分な切断長でサイレージとして詰め込むに適切な切断長を知ることが出来ます。 TMRを篩にかけた場合、上段の篩に6−10%以上、中段に30−50%以上、下段に40−60%以上が分布するのが適切であるとされています。 |
![]() |
最後に |
蹄病の発生の原因として、低繊維、高デンプンによるアシドーシスがクローズアップされがちですが、蹄病の発生にはカウコンフォートの欠如、不衛生な蹄管理、牛の肢の機能的な問題等多くの要因が関係しています。実際の蹄病の問題解決には、何が蹄病の発生原因なのかを多くの要因から、検討していくことが大切だと思われます。 技術部 技術課 内田勇二(獣医師) |