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2001年08月 暑熱対策について  

 
ユーザ紹介(中標津町 美馬農場) 2002年07月
今回は、ウイリアムマイナー研究所のビデオシリーズ15巻で紹介されている中標津町上標津の美馬農場にスポットを当てていきたいと思います。

有限会社美馬農場の概要について

美馬農場の酪農に対する取り組みは新しく、1994年に酪農をスタートさせました。それ以前は、牧草の生産、販売業務を営まれていたとお聞きしています。
飼養形態はフリーストールの形態で、酪農を始めてから毎年徐々に飼養頭数は増加する傾向にありましたが、特に昨年7月から今年にかけて経産牛の飼養頭数を、150頭から300頭への規模拡大を実現されております。
現在の農場の成績は、乳検成績で経産牛1頭当たりの乳量は、10020Kg、乳蛋白質3.18%乳脂肪率4.05%、体細胞9万であり、高い生産性と高品質の牛乳を生産されています。繁殖成績についても、分娩間隔は400日程度、初産分娩月齢25ヶ月分娩で、年間の事故率も非常に少ない牛群です。
現在は3回搾乳の形態をとり、家族5人と、パートタイマー6人の労働形態をとります。自給飼料は、コーンを30町歩、グラスを60町歩栽培し、購入粗飼料としてルーサンを購入されています。

牛群管理と牧場の特徴

飼料設計及び牛群管理については、トータル・ハード・マネージメント・サービスのスタッフ(獣医師)コンサルテーションを受けて、決め細やかな飼養管理が実践されているようです。
泌乳牛は、初産、経産牛、産褥群で群分けされ、TMRは1群TMRの形態を取ります。
飼料設計は、スパルタンや、CPMデーリーのプログラムを使用されており、グラスサイレージ、コーンサイレージ、ルーサンヘイの粗飼料と、濃厚飼料では主に単味配合を中心として、配合飼料、添加剤等を使用しています。
また、乾乳牛は、以前は2群管理を行っていましたが、現在では”高繊維、低エネルギーの1群管理“に挑戦(後で説明しますが)しているとのお話でした。
トータル・ハード・マネージメント・サービスのコンサルテーションを受けていたこともあり、国内外から様々な分野の研究者も農場を訪れる機会が多く、最新の酪農情報が集まっているようです。
したがって、現在の好成績の背景には、最新の酪農技術を抵抗なく取り入れ、自分の農場の中でさらに改良を加え、よいものを作り出す創意工夫が存在しているのではないかと思われます。

優れたカウコンフォートが実現されている農場

昨年作られた牛舎(現在は乾乳牛を飼養)からその1例を紹介します。

@水槽について

美馬農場は、フリーストールで連続水槽を取り入れた農場です。昨年、建設された新しい牛舎には連続水槽は使用していないですが、水の重要性を十分考慮し、幅広く、長い水槽を取り付け、水を飲んでいる牛の後ろを牛が移動可能な広さを備えています。

写真1 以前の連続水槽
写真2 新しい水槽

A飼槽のネックレールについて

ネックレールは、従来フリーストールの農場で見られるネックレールと異なり、写真のような形態のネックレールを使用しています。このネックレールは高くすることで、同時に前のほうに移動しますのでより適切なネックレールの高さを提供できることとなります。今回は紹介していませんが、このネックレール方式をベッドのネックレールに応用した牛舎もあるようです。

写真3  新しいネックレール
写真4  飼槽通路

Bベッドについて

ベッドは砂のベッドを使用していますので、牛にとっては最良の選択であると思われます。サイドパーテーションについては,ワイドスパンを採用しておりその寸法についてはAndrew,Johnson氏の推奨値(ウイリアムナイナーUPデイト1999.185号に詳しく記載されています)に従って作られています。飛節など腫らした牛は見られず、良好なカウコンフォートが提供されているようです。

写真5  牛のベッド
写真6  ワイドスパンループ

新しい試み

@進化したベッド

現状のベッドでもかなり高度なカウコンフォートは達成されていますが、美馬農場ではさらに新しい取り組みを始めています。これは、育成牛のフリーストールでの試みですが、ベッドの前の障害物をまったくなくしたフリーストールを作られています。

写真7  前方に仕切がないベッド
写真8  前方に仕切のあるベッド

このようにすれば立ち上がるときのヘッドスペースの障害がまったくないので、よりスムースに立ち上がることが可能となります。ただし、美馬氏はこのようにした場合、従来の推奨とは異なった、サイドパーテーションの寸法が必要となるかもしれないと話されていました。
なお、美馬農場のフリーストールの詳細につきましては、ウィリアムマイナー研究所のビデオで詳しく説明されています。

A新しい乾乳牛の使用管理法

現在では乾乳牛に関しては1群管理を行っており、高繊維、低エネルギーの給与メニューに取り組まれています。これは、今年美馬氏がアメリカに視察した際、非常に分娩後の事故が低い農場で取り組まれていた方法で、高繊維の粗飼料として、乾乳牛にバッカンを2Kg程度給与する方法で、バッカンの給与によって乾乳期の牛のルーメン容積を大きくすることや、第1胃の通過速度がおそくなることなどが期待され、乾乳後期でも非常に高い乾物摂取量が達成され、分娩後の事故(第四胃変位など)は減少するとのことです。
実際にアメリカから帰国されて、早速、乾乳牛の飼養管理をクロースアップでは、栄養濃度を高めた2群の乾乳管理から、1群のバッカンの給与体系に切り替えて、現在試験中との話でした。
はっきりとした結果が得られるのは、もう少し時間がかかるようですが、乾乳牛の変化として、非常に強い反芻が見られるようになっています。今後ある程度分娩する牛の数がまとまってくれば、何らかの結果が得られることと思います。
また、その他の工夫としては機械を用いて酸性水、アルカリ水に分離させ、酸性水の方はパーラーにて蹄洗浄のために用いているとのことです。

まとめ

今回紹介したことは、美馬農場で行われていることの、一部にしかすぎないと思います。その他のことでも色々な工夫がなされていることでしょう。現状に満足せず常に高い目標を持ち、チャレンジする意欲と探求心が、現在の美馬農場の高品質で高い生産性を支えているのでしょう。さらに高いレベルを目指して、進化する農場として注目していきたいと思います。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)