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〜CNCPS Ver6.1トレーニング(NDS・AMTS)と米国 酪農場訪問〜
 
2011年09月 乳牛の新しい栄養計算ソフト「AMTS」の紹介
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2010年07月 ウィスコンシン州Central Sands Dairy LLSの視察について(後編)  
2010年06月 ウィスコンシン州Central Sands Dairy LLSの視察について(前編)  
2010年02月 あなたの農場に、妊娠牛は何頭いますか?  
2009年09月 乳牛の飼料効率を考えよう  
2008年10月 <特別寄稿>繁殖についての取り組み
〜牧場と、若き酪農ミセスの奮闘記〜
 
2008年06月 肉牛育成牛について考える  
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2006年05月 乾乳期間について考える  
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2005年02月 ユーザ紹介(大樹町 山下牧場)  
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2003年09月 酪農経営データベース(酪農DB)の活用について  
2003年02月 光周期コントロールについて  
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2002年04月 ユーザ紹介(苫小牧市 五十嵐牧場)  
2002年02月 ユーザ紹介(美瑛町 畑中ファーム)  
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2001年09月 乳牛の蹄病とその対策  
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乾乳期間について考える 2006年05月
最近、酪農雑誌等で、乾乳期間の短縮についての記事が記載されるようになり、北海道の酪農家の中にも、乾乳期間の短縮に取り組む農家もあるようです。ただしその結果については、思ったような効果が得られず、以前の60日の乾乳期間に戻したとの話もありました。乾乳期の短縮については、以前、ホームページで新しい酪農技術として簡単に紹介しましたが、今回は、これまで紹介された乾乳期間の短縮の実例やその目的、注意点を整理し、より詳細に乾乳期間の短縮について考えたいと思います。

1.乾乳期間を60日としていた背景

乾乳期の乳腺細胞の変化は、退縮、休止期、再生または分化期の3つの段階に分けられると考えられています。

@積極的な乳腺細胞の退縮
  (乳腺細胞の退縮と細胞の死は泌乳全期で起こるが、乾乳することにより退縮と細胞の死が急速に進行する)
      ↓
A退縮のいわゆる定常状態、休止期
      ↓
B再生期、または分化期

この期間が各々2〜3週間程度であり、乾乳期間が60日必要とされる根拠になっていました。また、実際に乳検データの乾乳期間の長さと、次期の乳期の乳量を調査したところ、最低でも50日〜60日の乾乳期間が必要とされるデータが示され、実際のフィールドの結果も、乾乳期間は最低でも50日〜60日は必要であるとされてきました。

参考文献:平成13年度 個体の305日間成績
vol.26 社団法人 北海道酪農検定検査協会


ただし、これまで、定説とされていた乾乳期間の乳腺細胞の変化については再度詳細な調査が必要であり、乳腺細胞の発達は30日〜40日あれば十分であるとの報告もあるようです。また、乳検データの結果についても、そのデータは、乾乳期間について厳密な試験をおこなった結果ではなく、ただ単に乾乳期間の比較を示したものであり、乾乳期間が短かった個体は、人工授精の記録のミス、早産、双子分娩、乾乳することを忘れたなど、60日の乾乳期間をとっていた個体に比較し乾乳期の飼養管理が不十分な個体であった可能性もあることから、乾乳期間が60日間は必要する根拠には疑問があるとの意見もあります。

2.乾乳の短縮による利点

@出荷乳量のアップと分娩直後の乳房炎の軽減
乳牛の改良や、飼養管理技術の進歩で乳牛の生産性も向上し、乾乳時に乳量が25s以上の乳牛も多くなっています。このような個体を乾乳にした場合、乳頭口が閉じきらずに乾乳期の感染による分娩直後の乳房炎の問題も指摘されるようになっています。分娩直後の乳房炎の問題は、その後の泌乳量に大きな影響を与えますので、泌乳量の高い個体は乾乳期間を60日とることにこだわらず、ある程度乳量が低下するまで、泌乳期間を延長(乾乳期間は42日程度で、乳量が16Kg以下になるように誘導)し、乾乳することを推奨する意見もあります。このような個体の場合、乾乳期の短縮による乳房炎の発生の防止と、泌乳期間が15日延長されることでの出荷乳量の増加(平均乳量を20Kgとすれば、約300Kgの乳量を余分に出荷できる)の2つの利点を得ることが出来ます。もし、乾乳期の短縮によって、次期の産次での乳量の低下が見られたとしても、乳量300Kg以上の減少がない場合では、結果として出荷乳量が増加し、分娩後の乳房炎の問題が軽減される可能性があります。

A乾乳牛舎での過密な状況を改善できる
泌乳期間の延長、乾乳期間の短縮により、乾乳牛舎のスペースが現在よりも少なくてよいことになります。
(当然、泌乳牛舎のスペースはより多く必要です)
最近の研究では、乾乳牛舎では、定員の約90%以下の頭数(泌乳牛では許容範囲が110%以下)で飼養されるのが適切とされます。夏場の繁殖成績の低下で受胎が秋にずれ込み、その結果、分娩が一定の期間に集中する場合などは、粗飼料の変更、大きな飼料給与の変動等が見られなくても、乾乳期間を過密な状況で飼養することになり、分娩後の疾病が増加します。乾乳牛舎のスペースを十分にとることが出来れば、問題は解決するのでしょうが、実際には、分娩が偏った場合を想定して、乾乳牛舎のスペースを十分とるように作られるケースはあまり見られません。そのような場合には、乾乳期を短縮することで、乾乳牛舎の過密の状況を改善することが可能です。乾乳を60日として、乾乳期を過密にさせるよりも、乾乳期短縮による過密な状況を解消したメリットが大きいと(次期乳期で乳量がやや低下するとしても)思われる場合は、乾乳期の短縮を取り組む価値は十分あると思われます。

B乾乳期の飼養管理が簡便(1群管理が可能な牛群へ)
一般的に推奨されている乾乳期間は、乾乳前期、乾乳後期の2群管理を行うことが推奨されていますが、この場合も乾乳期間が60日を前提としています。もし乾乳期間が60日は必要ないとしたら、現在の2群管理ではなく、1群管理のほうが良いのかもしれません。乾乳期間を短縮した場合、短い乾乳期間を2群に分けて、それぞれ異なる給与形態を持つことは無理があると思われます。したがって、乾乳期間を短縮する場合は、1群管理を行うことが現実的で、その場合、乾乳期間の飼養管理も簡便化されることになります。現実に、60日の乾乳期間であっても乾乳牛舎の状況や、管理上の都合で、1群管理を行っている酪農家もあります。また、実際に乾乳期を短縮する場合は、乾乳後期の栄養レベルの1群管理が推奨されているようです。

以上のようなことが乾乳期を短縮する際の利点と考えられています。


3.乾乳期間の短縮による問題点

実際、乾乳期の短縮に取り組んだがうまくいかなかったとの話もあります。問題点はどこにあるのでしょうか?乾乳期間の短縮の事例について整理すると下記のような牛は短縮すべきではないようです。

   乾乳期の短縮を行うべきでない牛(従来の50日〜60日の乾乳期間が必要)
     1)初産牛
     2)低泌乳牛(乾乳時すでに乳量が15Kg以下の牛)
     3)BCSが低い牛
     4)泌乳後期に乳房炎を発症し、乾乳期間に再治療する可能性がある牛
     5)双子を妊娠する可能性がある牛
     6)泌乳中に問題があった牛

整理して考えると乾乳期を短縮すべきでない牛の条件もかなりあることが理解できます。

4.適切な乾乳期間の管理方法について

もし、すべての牛に乾乳期間の短縮を行った場合、初産牛では良い結果は期待できないこと(牛群のほぼ30%は初産牛)や、経産牛であっても、低泌乳のため、目標の乾乳期間の40日よりもかなり早めに乾乳される牛も必ずいます。このような牛は、長期間、栄養濃度の高いクロースアップの餌を給与されますので、乾乳中に過肥が進むことが考えられます。その場合、以前のように乾乳前期、後期の2群の栄養管理に比較して、分娩後の疾病が増加する可能性があります。
したがって乾乳期の短縮に取り組む場合は、短縮すべきでない牛もいることを前提とし、乾乳前期(ファーオフ)、乾乳後期(クロースアップ)の2群の管理を行い、牛の状態に応じて、乾乳期間を選択し、乾乳期を管理することが必要になります。

乾乳期間については、現在、30日乾乳も問題ないとする報告もあるようですが、40日〜45日程度の乾乳日数が無難と思われます。乾乳期間の短縮を行う場合に推奨される栄養濃度は、これまでのクロースアップの栄養濃度が推奨されていますが、乾乳期の栄養レベルについては乾乳期の短縮に限らず、いろいろな意見があり、議論されるところです。たとえば、エネルギーの指標を示すNEl濃度を考えても、研究者が推奨している栄養濃度(1.5〜1.6Mcal/Kg)がどのような計算ソフトを用いたものか(2001年NRCあるいはCPMを念頭置いているかなど)、不明な場合が多いので、推奨値を明確にすることが難しい状況です。最近は、乾乳期の飼養管理の向上などで、乾乳期でもかなり乾物摂取量が高い牛群もあります。その場合あまり高い栄養濃度では、乾乳期間に牛が過肥になること、あるいは分娩直前の乾物摂取量の低下や、インスリン抵抗性の状況に陥り易くなり、NEFA(脂肪の動因が促進され、遊離脂肪酸が多くなる)の値が上昇し、分娩後のトラブルが増加する傾向があることなどが指摘されるようになりました。 したがって可能であれば、乾草などを入れて(切断した乾草をTMRに入れて給与)ルーメンのがさを考えた飼料給与形態を実現した上で、エネルギー濃度(これまでの乾乳後期よりもやや低い栄養濃度)を考慮する必要があるのではないかと思われます。

* インスリン抵抗性とは
インスリンは血糖を下げるホルモンですい臓から放出されています。インスリン抵抗性とはインシュリンの作用により糖を取り込み、脂肪の動因を抑える代謝反応が低下している状態で、その場合、ケトーシス、脂肪肝などの代謝病が増加します。

また、分娩後、乳熱の発生頻度が高い場合、これまで60日乾乳で2群の管理が可能であれば、乾乳前期は十分にカルシウムを給与し、乾乳後期の21日はカルシウム濃度を低く抑える給与法が従来から推奨されていました。もし、乾乳を短縮する場合は、乾乳後期の1群管理の給与形態をとることになりますので、40日間カルシウム濃度を抑えた給与法では問題があります。したがって、粗飼料のKが高く、分娩後に乳熱の発生頻度が高い場合についは、緩やかにDCAD(0mEq/100g前後にする)をとる方法が良いのではないかと思っています。以前は、DCADに取り組んだ場合、“嗜好性に問題があり乾物摂取量の低下が見られたため中止したと”の酪農家もあったようですが、最近は、DCADを行うための商品の嗜好性も改善されており、有効に使用されている酪農家もあるようです。

したがって、乾乳期短縮の短縮を行う際は
1)条件を満たした牛がその対象になること
2)基本的には2群管理を行い、条件を満たした牛は乾乳後期群で40日以上の乾乳期は飼養されること
3)乾乳後期の栄養レベルは、推奨されている栄養濃度よりやや低くても、乾草などを用いた給与法をベースすること。
4)もし、乳熱など発生が見られる場合は、緩やかに、DCADをとる給与形態を用いることなどの飼養管理を行うことが必要かと思います。(当然、乾乳期は、乾乳期の短縮の有無に関わらず、使用する粗飼料は良質なものを使用する必要があります)

また、乾乳期の短縮を行う場合、現在使用している乾乳期軟膏で次期分娩後の抗生物質の残留の問題ないかどうか、検討する必要があります。問題が生じるようであれば、乾乳期間を短縮する牛についての乾乳期治療のプロトコールが必要になります。


最後に

今回は、乾乳期の短縮について、再度、整理してみましたが、実際取り入れる際には、多くのハードルがあるようです。まずは、各農場の現状と、牛の個体の能力を十分把握して、産次の進んだ経産牛で試験を行い、その結果をモニタリングし、その結果から、自分の牛群に取り入れるかどうかを判断すべきだと思われます。
技術部 技術課 内田勇二(獣医師)